日本薬理学雑誌
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特集 新しいグリア細胞機能:新規可視化・操作法によりわかったグリアの新機能
新規トランスジェニックマウスシステムで明らかになったアストロサイト内Ca2+濃度変動の役割
田中 三佳
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2016 年 148 巻 2 号 p. 69-74

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抄録

アストロサイトは神経活動に応答してイノシトール三リン酸(IP3)依存的細胞内カルシウムイオン(Ca2+)濃度上昇を示すことが知られているが,その機能的意義については相反する報告がなされている.この問題に取り組むため,我々はIP3を吸収することでその下流のシグナルをブロックするIP3 spongeという分子をアストロサイト特異的かつ可逆的に発現するトランスジェニックマウスを作製した.このマウスの海馬では神経活動依存的アストロサイト内Ca2+濃度上昇が減弱していることが確認でき,電顕による組織学的解析からアストロサイト微小突起によるシナプス被覆が減少していることが分った.海馬スライスを用いた電気生理学的解析からは海馬のシナプスでグルタミン酸のスピルオーバーが生じていることが示唆され,行動学的解析からは海馬に依存する記憶学習に障害がおきていることが示された.これらの結果からアストロサイト内Ca2+シグナリングが海馬において機能的三者間シナプスの形成に重要であることが明らかになった.

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