日本薬理学雑誌
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148 巻, 2 号
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特集 新しいグリア細胞機能:新規可視化・操作法によりわかったグリアの新機能
  • 松井 広
    2016 年 148 巻 2 号 p. 64-68
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/01
    ジャーナル フリー

    光遺伝学は,開発当初から,主に脳神経細胞に適用されてきた.しかし,光遺伝学のアイディア自体は,どんな細胞の光制御にも応用可能である.多種の細胞が形作るネットワークを,何らかの信号が行き交うことで,多細胞生物である我々は,ひとつの個体として,整合性のある活動を行っている.本稿では,脳内グリア細胞に光遺伝学を適用した例を紹介する.また,光遺伝学は,細胞内pH操作のツールとしても活用できる.私たちの研究を通して,細胞内pH変動から始まるシグナル・カスケードの重要性が明らかになってきた.本稿の後半では,脳内において,細胞内pHが変動する要因,また,pH変動が及ぼす効果について,これまでの先行研究をまとめて総説する.

  • 田中 三佳
    2016 年 148 巻 2 号 p. 69-74
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/01
    ジャーナル フリー

    アストロサイトは神経活動に応答してイノシトール三リン酸(IP3)依存的細胞内カルシウムイオン(Ca2+)濃度上昇を示すことが知られているが,その機能的意義については相反する報告がなされている.この問題に取り組むため,我々はIP3を吸収することでその下流のシグナルをブロックするIP3 spongeという分子をアストロサイト特異的かつ可逆的に発現するトランスジェニックマウスを作製した.このマウスの海馬では神経活動依存的アストロサイト内Ca2+濃度上昇が減弱していることが確認でき,電顕による組織学的解析からアストロサイト微小突起によるシナプス被覆が減少していることが分った.海馬スライスを用いた電気生理学的解析からは海馬のシナプスでグルタミン酸のスピルオーバーが生じていることが示唆され,行動学的解析からは海馬に依存する記憶学習に障害がおきていることが示された.これらの結果からアストロサイト内Ca2+シグナリングが海馬において機能的三者間シナプスの形成に重要であることが明らかになった.

  • 繁冨 英治, 小泉 修一
    2016 年 148 巻 2 号 p. 75-80
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/01
    ジャーナル フリー

    アストロサイトは,中枢神経系全般に存在し,シナプスや血管と密接に接触することから神経活動に必要な栄養を供給し,またその栄養を運ぶ血管を制御して血流を調節すると考えられている.最近の研究により,アストロサイトは,神経構造を維持するのみならず,積極的に神経構造及び神経活動に影響を与えることが明らかになりつつある.アストロサイトは神経細胞と異なり顕著な電気的なシグナルを発生しないが,Ca2+シグナルなどの化学的なシグナルを生じて活動すると考えられている.過去20年以上の研究の歴史の中で,アトロサイトは様々な刺激に応じて活動依存的にCa2+シグナルを生じ,これによってほかの脳細胞と情報伝達することが示されてきた.近年開発された可視化技術により,Ca2+シグナルがより詳細に解析され,その驚くべき多様性が示されてきた.さらに覚醒下行動中の動物を用いた解析により,アストロサイトのCa2+シグナルと動物の行動との関連性が明らかとなりつつある.病態時においてはアストロサイトCa2+シグナルが劇的に変調しこれが病態の一因となる可能性も示されてきている.本稿では,近年開発されたアストロサイトCa2+シグナルの可視化技術に焦点をあて,アストロサイトのCa2+シグナルが脳の健康と病態にどう関係しているのか,その最新の知見を紹介したい.

  • 佐藤 薫
    2016 年 148 巻 2 号 p. 81-85
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/01
    ジャーナル フリー

    ミクログリアは脳のマクロファージ様細胞として免疫機能を担当していることが古くから知られていたが,系統的に発生過程の早い時期にマクロファージと分かれていることが明らかにされた.胎生期ミクログリアはほとんどが突起を持たない丸いamoeboid型のミクログリアであるが,生後初期にamoeboid型のまま爆発的に増加し最大数に達し,発達がすすむにつれamoeboid型のミクログリアは減少し成体においてほとんどが静止型となる.脳室下帯(subventricular zone:SVZ)は一生を通じて神経新生やグリア新生が起こる領域であるが,生後初期は特に新生細胞の種類が激しく入れ替わる時期である.主要な投射神経は胎生期に,アストロサイトは胎生期から生後初期まで,オリゴデンドロサイトは胎生後期から生後初期にかけて,介在神経は胎生後期から成体に至るまで新生が続いている.そこで我々はステレオジーイメージングを大幅に簡便化し,生後初期から生後30日齢(postnatal day 30:P30)までSVZ周辺のミクログリアを観察したところ,生後初期に活性化型のミクログリアがSVZの特に中心部に集積していることを発見した.さらに,このミクログリアがIL-1β,IL-6,TNFα,IFNγの相補的な作用を介して神経新生,オリゴデンドロサイト新生を促進していることを明らかにした.この簡易ステレオロジーイメージング法は特定細胞の経時的脳内分布の概略をつかむためには非常に有用なツールと言える.そこで,簡易ステレオロジーイメージング法プロトコルを紹介し,生後初期SVZに集積したミクログリアの分布と役割について考察を加える.

受賞講演総説
  • 青木 友浩
    2016 年 148 巻 2 号 p. 86-91
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/01
    ジャーナル フリー

    脳動脈瘤は脳血管分岐部に生じる嚢状の病変であり,致死的なくも膜下出血の主要な原因として重要な疾患である.くも膜下出血の予防のためには,日常臨床で多く発見される未破裂脳動脈瘤の破裂予防の治療が必要である.しかし現時点で脳動脈瘤に対する薬物治療法が存在しないために,多くの症例が無治療となっていることが社会的に大きな問題である.このような現状から,脳動脈瘤形成・増大・破裂機序の解明とその知見に基づく新規薬物治療法開発が急務である.一連の主にモデル動物を使用した近年の解析から,脳動脈瘤形成・増大が,脳動脈瘤の誘因と従来考えられていた血流ストレス負荷に惹起される炎症反応に制御されており,それゆえ脳動脈瘤が血流ストレス依存的な脳血管壁の慢性炎症性疾患として定義できることが明らかとなった.このことから,脳動脈瘤が動脈硬化,がんや耐糖能異常といった社会的に重要な種々の疾患と共通の病態形成基盤を有することが判明し病態理解が大きく進んだ.また,それら炎症反応を担う細胞種としてマクロファージが,因子としてNF-κB活性化やCOX-2-PGE2-EP2経路が同定された.さらにこれらの因子を阻害することでモデル動物での病態抑制が可能であることが示された.これらの知見を発展させ,NF-κB活性化を抑制するスタチン製剤やCOX-2-PGE2-EP2経路を遮断するNSAIDsの服用によりヒトの脳動脈瘤症例での破裂を抑制し得るという臨床研究の結果も報告された.これらのことから,脳動脈瘤に対して破裂予防のための薬物治療が可能であることが示唆された.このように近年の脳動脈瘤形成・増大・破裂機構の解析から脳動脈瘤の薬物治療法開発の可能性が見出され,脳動脈瘤治療は新たな局面を迎えつつある.

実験技術
  • 白井 幹康, 八木 直人, 梅谷 啓二
    2016 年 148 巻 2 号 p. 92-99
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/01
    ジャーナル フリー

    近年の分子生物学の発展により,種々の細胞の特性が遺伝子・タンパク質レベルで次々に明らかにされてきた.他方,このような要素的知識を統合して生体を有機的にとらえる研究が益々重要となっている.マウスなどの小動物は,遺伝子導入や欠損などの遺伝子操作技術が確立し,また,短期間での病態モデル作成が容易であることから,要素的知識を個体レベルに還元して検証する研究において重要な位置をしめている.本稿では,著者らが進めてきたSPring-8高輝度放射光X線による麻酔下小動物での心血管運動機能の解析法を紹介する.一つは,透過X線による高解像度微小血管造影法である.固定臓器の微小血管(内径~30 μm)はもちろん,高心拍数のマウス心臓の冠細動脈(内径~50 μm)の応答も臓器を露出することなく撮影可能である.本法のメリットは,臓器表層から内層にわたる,あるがままの血管ネットワーク上において,大血管と小血管の応答の差異を同一画面で同時に評価できることである.また,臓器内の血流分布や循環時間の情報も得ることができる.遺伝子改変マウスへの応用によって,循環調節や病態の分子機序の解明が進むものと期待されている.二つ目は,散乱X線を利用した心筋X線回折法である.ナノレベルの心筋収縮タンパク質分子のcrossbridge動態を心室壁の任意の心筋部位においてピンポイント(0.2×0.2 mm)で評価でき,心筋機能異常の詳細な分布の把握を可能とする.また,iPS細胞などによる再生心筋の局所的機能評価にも応用できる.

創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(5)
  • 小比賀 聡, 笠原 勇矢
    2016 年 148 巻 2 号 p. 100-104
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/01
    ジャーナル フリー

    核酸医薬は現在新たな創薬手法として注目を集めている.特に,標的遺伝子のmRNAに相補的な配列をもつオリゴヌクレオチドを用いて,その遺伝子の発現を抑制するアンチセンス法の研究開発は広く進められており,現在では数多くの医薬候補が臨床試験に進んでいる.アンチセンス核酸の特徴の一つには,標的遺伝子の配列情報があれば誰しも容易に設計できるという点があげられるが,その有効性を最大限に引き出すためには配列のデザインが非常に重要である.しかし,これまでのところ明確なデザイン戦略は知られておらず,試行錯誤に頼るところが大きい.本稿では,これまでの知見や我々独自の経験から,アンチセンス核酸の配列デザインの基本的な考え方や留意すべきポイントをまとめた.

新薬紹介総説
  • 横山 和正, 服部 信孝
    2016 年 148 巻 2 号 p. 105-120
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/01
    ジャーナル フリー

    多発性硬化症(MS)はヘルパーT細胞1(Th1),Th17細胞などの獲得免疫により髄鞘タンパク質に対する自己免疫性炎症反応とそれに伴う脱髄が病態形成の中心とされてきたが,MSの進行に強く影響する神経変性過程では炎症性反応の他にもいまだ未解明の病態が関与していると考えられる.近年,MS変性過程での主なプレイヤーは自然免疫とされ,MSは経過により免疫病態がシフトする不均一な疾患と捉えられる.また,MSの大多数を占める再発寛解型MS(RRMS)患者は発症から10年以内に50%が二次性進行型MS(SPMS)へ移行するが,急性発作に対するステロイド療法では再発抑制と障害進行抑制効果に対してのエビデンスはないことから,MS治療では再発抑制効果,障害進行抑制効果が期待されるインターフェロンβ製剤,グラチラマー酢酸塩(GA)をはじめとする病態修飾療法(DMT)が主な治療選択肢となる.GAは,MSの動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の病因探索でミエリン塩基性タンパク(MBP)の生物学的認識を模倣する目的で4つのアミノ酸で化学合成され,EAEを改善することが示された合成ランダムポリペプチドである.GAはEAEに対する効果に基づいて開発され,RRMS患者を対象とした一連のピボタル試験で有効性が示されたことから1996年に米国,イスラエルで承認されて以降,世界50ヵ国以上でIFN β製剤とともにRRMSに対する第一選択薬として用いられている.GAは日本においても2015年に「多発性硬化症の再発予防」の効能効果で厚生労働省から製造販売承認を受けている.海外での20年以上にわたる臨床経験で確立された安全性に加え,MSにおける獲得免疫,自然免疫の炎症機序を標的とする免疫調整作用により,多くの新規DMTが登場しつつある現在でも,優れた治療選択肢となるものと期待される.

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