2022 年 32 巻 1 号 p. 68-75
生命倫理とフェミニズムを融合するひとつの動きとして「フェミニスト生命倫理」の発展が挙げられる。本稿はそこで論じられるトピックの中でも特に、自律を抑圧に抵抗する拠点として論じる「フェミニスト的な関係的自律」に関する先行研究を概観することを主たる趣旨としている。フェミニスト的な関係的自律は、それが「関係的であること」と「フェミニスト的であること」に関して、それぞれ批判を受けてきた。そこで本稿では第一に、それらの批判を概観し、哲学的な理論上ではフェミニスト的であることを重くとらない関係的自律の議論に一定の優位性があることを確認する。第二に、フェミニスト生命倫理やフェミニスト的な関係的自律の起源として、性と生殖を巡るフェミニズムの運動に立ち返る。このことを通して、抑圧への抵抗としてフェミニスト的な関係的自律を論じ続けることには依然として意義があり、またそれは歴史的観点から要請されるものでもあるということを提示する。