抄録
本論文では起源の異なるPhospholipase D (PLD) のホスファジル基転移能を比較し、さらにその電気泳動法による解析、そして先に報告された全アミノ酸配列を比較・検討した。
キャベツの葉から精製されたPLDのホスファジル基転移能はStreptomyces chrornofuscus PLDよりも高かった。キャベツの葉から精製されたPLDはnondenaturing PAGEおよびSDS-PAGE上で単一であった。しかし、Streptomyces chrornofuscus のPLDは、nondenaturingPAGEおよびSDS-PAGEにおいていくつかのバンドを与えた。この結果はStyeptornyces chromofuscusPLD標品にはいくつかのポリペプチドの会合によって形成されたいくつかのヘテロ多量体が存在することを示唆した。
また、先に報告されているキャベツ起源PLDとStreptomyces chromofuscus PLDのアミノ酸配列を比較した。キャベツ起源PLDにはN末端より330残基近傍と660残基近傍にPONTINGらによってホスファチジルアルコール合成酵素に関与することが示唆されたHxKxxxxDモチーフの存在が確認された。一方、Streptomyces chyoynofuscus起源のそれにはHxKxxxxDモチーフに類似した配列が存在していたものの、本モチーフの存在は確認できなかった。
先にYAMANEらは、Streptomyces属由来PLDは優れたホスファチジル基転移能を有するもののStreptomyces chromofuscus由来PLDを用いた場合、転移反応はほとんど進行しないことを見出した。また、彼らは転移能の高いPLDのアミノ酸配列はそのタンパク質全体において相同性が高いことを報告している。
これらのことから、キャベツ起源PLDのホスファチジル基転移能がStyeptornyces chrornofuscus PLDそのそれより高いことはアミノ酸配列の差異、特にHxKxxxxDモチーフの有無に起因することが考えられた。これらの事実はタンパク工学的手法からの追究により確実に証明されるだろう。さらに、キャベツ起源PLDは、その優れたホスファジル基転移能より、リン脂質の改良に適した試料であると考えられた。