抄録
チェリートマト(Lycopersion esculenturn var. Cherry)の果実より,血液型非特異的でN-アセチルキトオリゴ糖を認識するレクチンが,陰イオンおよび陽イオン交換クロマトグラフィーを用いて,またはキチンを担体とするアフィニテークロマトグラフィーによっても分離できた.精製チェリートマトレクチン(LEcA)は,94%のL-アラビノースと4%のD-ガラクトースから成る糖鎖を50%含み,ハイドロキシプロリンに富む単量体の糖タンパク質で,その分子量は100,000であった. 精製レクチンの糖結合特異性は,抗LEcAポリクローナル抗体と糖タンパク質を用いたELISA改良法のGLISA(glycoprotein-lectin immunosorbent assay)法による定量沈降および,その阻害試験にて検討した.本レクチンは,β-(1→4)結合のN-アセチルグルコサミン鎖に特異的に結合した.LEcAはN-アセチルキトビオース-BSAとは強く反応したが,N-アセチルグルコサミン-BSAとはほとんど反応しなかった.LECAとサイログロブリンの結合反応は,N-アセチルキトオリゴ糖によって,[GlcNAc]5>[GlcNAc]4>[GlcNAc]3>[GlcNAc]2の順に強く阻害され,その阻害活性は[GlcNAc]2よりもそれぞれ194倍,32倍,5倍強かった.過ヨウ素酸酸化後,還元した[GlcNAc]4および[GlcNAc]5は,ともに強い阻害を示し,その活性はそれぞれ[GlcNAc]2と[GlcNAc]3とほぼ同程度であった.このことから,LEcAはN-アセチルキトオリゴ糖鎖の内部糖残基を認識できることが確かめられた. 腸管反転サック法を用いて,ラット小腸にLEcAが作用したときの絨毛上皮での糖の吸収を検討したところ,3-0-メチル-グルコースの取り込みは,ある程度阻害された.また,抗LEcA抗体を用いた蛍光抗体法で,本レクチンを作用させた小腸組織を観察したところ,LEcAは小腸絨毛上皮の微絨毛膜と粘液分泌腺に結合していることがわかった.