2023 年 73 巻 2 号 p. 103-111
2018年度より特定健康診査の標準的な質問票に咀嚼についての項目が追加された.厚生労働省が咀嚼機能の都道府県別データを公表しているが,その地域差の要因については調べられていない.本研究では地域相関研究で,40~50代の主観的咀嚼機能の地域差とその要因について男女別に検討した.咀嚼機能に関する質問項目で,歯や歯ぐき,かみ合わせなど気になる部分があり,かみにくいことがある・ほとんどかめないと回答した者を咀嚼機能低下とし,その割合を集計した.咀嚼機能が低下した者の割合の都道府県差は男女ともに認められ,40~44歳の女性において最も割合が大きい県で14.0%,最も小さい県で7.1%であり約2倍の違いがあった.次に,都道府県別の咀嚼機能低下者の割合と関連する要因を各官公庁の統計資料を用いて調査した.その結果,男性では,大学進学率が低く,離婚率が高く,12歳児DMFT指数が高く,心疾患の死亡率が高い都道府県ほど咀嚼機能低下の割合が高かった.女性では,大学進学率が低く,離婚率が高く,第二次産業従事者の割合が低く,一般診療所数の数が少なく,1歳6か月児および,3歳児う蝕有病者率が高い都道府県ほど咀嚼機能低下割合が高かった.これらの結果は,都道府県レベルでの社会経済状況や小児のう蝕経験状態が主観的咀嚼機能の地域差に関連することを示唆している.今回の地域相関研究の結果を基に,個人単位の研究により詳細を究明していく必要があると考える.