抄録
【目的】近年、日本においては食育が国民運動として推進されているが、従来家庭科における食生活領域の学習は、児童・生徒がより良い食生活を実践できる力を身につけることをねらいとし、学校における食育の重要な役割を担っている。一方、子どもたちの食生活の実態や健康状態をみると、必ずしも家庭科での学習が生かされているとは言えない状況が見受けられる。以上のことをふまえ、本研究は、今後の家庭科における効果的な指導方法について検討するための基礎資料を得ることを目的とし、中・高校生および大学生を対象に、家庭科食生活領域の知識の定着度を調査した。
【方法】調査対象は山形県内の学校に通う中学生122名、高校生190名、大学生124名の計436名である。調査は2011年5~6月に質問紙法により実施し、中学生および高校生については、各学校段階における家庭科食生活領域の学習前であることを条件とした。調査項目は先行研究(長島1982)を参考にし、「栄養素の働き」「食品と栄養素」「食物のとり方」「調理」「食品の性質」の5項目で構成された知識に関する設問の他、食生活に対する本人や家族の意識、食に関する情報の入手先等についても尋ねた。知識については、各設問の正解の選択率の他、各回答を得点化し、項目ごとの合計点等を算出した。統計処理にはSPSSを用い、危険率5%未満を有意とした。
【結果および考察】5大栄養素の主な働きを尋ねたところ、高校生と大学生の間よりも中学生と高校生の間で正解を選択した者の割合が大きく増加しており、中学校家庭科における栄養素に関する学習の効果と推察された。大学生において「炭水化物」や「ビタミン」の働きについて正解を選択した者は8割以上と高く、知識の定着度は高いことが明らかとなった。その一方で「無機質」の働きについて正解を選択した者の割合は、大学生においても男女共に低く、知識の定着が難しい栄養素であることが分かった。「栄養素の働き」および「調理」の項目の合計点について、2要因(性×学校段階)分散分析を行った結果、性および学校段階の主効果は有意であった。どちらの項目も学校段階が上がるにつれて知識の有意な向上が認められた一方、性差に関しては、「調理」において男子に比べて女子の得点が有意に高かったのに対し、「栄養素の働き」においては、女子よりも男子の得点が有意に高かった。家族と食べ物の話をすることが多いと思うかを尋ね、その回答に応じて調査対象者を食生活に対する家族の意識の高い群と低い群に分け、2要因(性×群)分散分析により、知識に関する各項目の得点に差が見られるか検定を行った。その結果、中学生においては有意な群の主効果が認められ、家族の意識が高い群の方が、そうでない群に比べて「調理」に関する知識の得点が高かった。大学生においては有意な交互作用が認められ、女子では「調理」に関する知識の群差は小さいが、男子においては、中学生の結果と同様に、家族の意識の高い群は、そうでない群に比べて「調理」に関する知識が高かった。他方、いずれの学校段階においても、「栄養素の働き」に関する知識には家族の意識との間に有意な相互関連性は認められなかった。
以上のことから、家族の食生活に対する意識は、子どもの調理に関する知識の習得に関与し、特に男子の調理に関する知識においては、家族の意識がより長期的に影響を及ぼす可能性が示された。一方、栄養素の働きに関する知識は、学校段階が上がるにつれて有意に向上し、なおかつ家族の意識の影響は今回認められなかったことから、家庭科において栄養に関する知識を体系的に学習することの重要性が示唆された。