抄録
【目的】本研究は従来の防災教育とは異なり,複数の教科間連携による共創型防災教育モデルにおける系統化・階層化された目標タクソノミーを背景としている。教科横断型学習目標として,認知・情意・行動を設定した。複数の教科や特別活動等が連携を図り,減災・防災・回避技術を学び安全意識を育てることは,義務教育段階において,大変に重要でありかつ教育効果が高く,有効になるものと考えられる。少子高齢化が加速する暮らしの中で,中学生が自らのそして家族や地域の尊い命を救うためにも,すなわち自助共助の側面からも積極的に減災・防災意識を高めることは不可欠であろう。 本研究では,英語・社会・理科・技術と関連させた製作教材として,「非常持ち出し袋」を取り上げた。英語では袋に入れるものを生徒同士伝え合いながら考える。社会では生徒の住む土地特性を知り,非常時,袋を持って逃げることを知る。理科では台風特性を知り,非常時,袋を持って逃げることを知る。技術では,家屋や家具の構造と地震時の揺れの関係を模型で体感する。家庭科では,家族特性を知り,袋を持って逃げることを意識する。家庭科としては,生徒が個々の課題意識に応じた袋に近づけるために作品設計上様々な工夫をした場面を焦点化した。教材開発および授業研究を行い,その成果と課題を明らかにすることを目的とした。
【方法】長野県内のS大学教育学部附属N中学校第2学年に在籍する男女40 名およびS大学教育学部附属M中学校第1学年に在籍する男女40 名を対象とした。本研究では,生徒が非常時の家族の願いを具現化し,一層機能的なものに近づけるという課題解決方法を非常持ち出し袋につけるポケットの設計を中心に応用した。生徒は,家族との相談から考え出した個別の品目の収納を目的とした図面を作成した。本実践はこのユーザーを意識した設計経験を通じて,危機意識と非常時の行動力の育成を期待し,これらを学習目標とした授業である。①授業前後の生徒の意識調査(あまり思わない~とてもそう思う5件法)②授業者2名に対するインタビュー調査③生徒が作成した作品紹介カードの分析④授業観察者による授業中の生徒の言動記録の分析,以上4つの資料より,多面的に本授業の成果を検討した。
【結果】①M中の生徒対象の意識調査より,授業前平均4.13,授業後4.36となり,減災・防災に関して情意面に向上傾向が認められた。②授業者インタビューより,本授業によって生徒は非常時を意識し,予想以上に防災・減災に関する認知面・情意面の高まりが期待できると評価された。③作品紹介カードより,生徒なりに非常持ち出し袋に求められる機能を追求している様子がうかがえた。平常時の備えの重要性を認識し個々の家庭実践(行動面)への影響も期待された。④授業観察記録より,非常時自分と家族にとって必要なものを強く意識した様子がうかがえた。製作後,減災・防災のために平常時より災害に対して意識を高く持つことへ関心が高まったものと推察できた。本研究で作成した減災・防災に関わる認知・情意・行動力目標に関して,教育効果の検証が十分とは言えないため,今後はより一層の教科間連携を深めた授業を重ね,その学習効果測定が必要である。研究に協力された本木善子教諭および山下紫織教諭に深く感謝いたします。 参考:福田典子・渡辺恵子「家族とともに危機意識を高めるための防災袋の製作」日本家庭科教育学会北陸地区会(2014) 本成果は,文部科学省科学研究費補助金基盤研究B(25285244)(研究代表者 田中 敏)の一部である。