2021 年 61 巻 1 号 p. 10-21
本研究は自動運転車による交通事故を題材として,人工知能が人間に危害を与えたときの原因と責任の帰属を検討した。自動運転車が歩行者を轢いて死亡させるというシナリオを提示し,自動車のメーカーとユーザーに対する原因帰属と責任帰属の判断を求めた。人工知能への原因帰属はメーカー,ユーザーへの原因帰属と正の関連を示し,さらに,自律的な機械に意図などの心の機能があると知覚する傾向が高い人ほど,メーカーに事故の原因を帰属した。これらの結果から,人工知能が高い自律性を備えたとしても,人間から独立した行為主体として認知されるわけではないことが示された。また,問題責任(問題を発生させたことへの責任)の帰属はメーカー,ユーザーそれぞれへの原因帰属によって規定されたが,メーカーの解決責任(生じた問題を解決する義務)の帰属は人工知能への原因帰属とも関連しており,原因の所在とは別に開発者という立場ゆえに問題に対処する義務があると判断されることが明らかになった。最後に,人工知能の開発・利用に関する制度設計を議論するために,一般の人々の態度について実証的な知見を得ることの意義を議論した。