本研究では,中学校数学科教科書の問題が学習者の理解を促すという機能を果たしているのかを明らかにするために,問題が学習者の理解の認知プロセスに沿って構成されているかについて検討した.そのために中学校数学科教科書の問題を,学習の文脈設定を促す問題,既有知識の活性化を促す問題,新たな知識の獲得を促す問題,知識の一通りの関連づけを促す問題,知識の多様な関連づけを促す問題,の5つに分類し分析した.その結果,新たな知識の獲得を促す問題が最も多く,知識の関連づけを促す問題はともに少ないこと,そして知識の関連づけを促す問題の前に,既有知識の活性化を促す問題と新たな知識の獲得を促す問題が十分に設定されていないことが示された.さらに知識の関連づけを促す問題には,数学的な知識の関連づけを促すだけでなく,数学的な知識と日常的な知識の関連づけを促すことで,数学的概念に関する理解をより深める問題もあることが示された.