日本教育工学会論文誌
Online ISSN : 2189-6453
Print ISSN : 1349-8290
ISSN-L : 1349-8290
最新号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
論文
  • 田中 理恵子, 向後 千春
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 48 巻 2 号 p. 285-296
    発行日: 2024/08/10
    公開日: 2024/07/26
    [早期公開] 公開日: 2024/06/10
    ジャーナル フリー

    本研究では,コロナ禍が社会人の学び直しにどのように影響しているかを明らかにすることを目的とした.その結果,以下のことが明らかになった.(1) 社会人は「自分の可能性と学習環境」,「学び直しと仕事への活用」,「友人と人脈の拡大」,「大学院進学と資格取得」を目的に入学していた.しかし,「友人と人脈の拡大」,「大学院進学と資格取得」は主な目的ではなく,副次的な要因であった.(2) 社会人はライフイベントを経験することによって自分の内面を見直す機会となり,新しい人生を再構築するために大学に入学していた.(3) コロナ禍は,社会人の生活に時間的余裕を与え,学び直しを促進させている可能性が示唆された.女性にとっては,在宅勤務によって得られた時間的余裕を学習時間に充足できるようになったことで仕事と家庭の両立が可能となり,大学入学動機につながっていると考えられる.また,オンライン授業は,社会人のフレキシブルな学びが可能な重要な学習環境であることが示唆された.

  • 異学年の学生とチームを組んだ授業支援に着目して
    科 瑶, 久保田 真弓
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 48 巻 2 号 p. 297-310
    発行日: 2024/08/10
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,異学年の学生とチームを組み大学の授業を支援する学生スタッフが,その経験を通してどのように自己形成しているのかを明らかにすることである.メディアリテラシーの授業で支援を行う学生スタッフ6名にPAC 分析(Personal Attitude Construct:個人別態度構造)を実施した.その結果,学生スタッフは,①先輩を通して見る理想自己と現実自己のズレ,②周りの期待に応えられず葛藤する自分,③他の学生スタッフと自分との相違,④授業支援の経験を通して得る成長と将来の見通し,⑤受講時と学生スタッフ時の視点の違い,⑥楽しさと辛さのバランス,という視点から授業支援の経験を捉え自己形成していた.また,その際に生起する感情が,学生スタッフが自己形成をする上で重要であり,それには,異学年の学生とチームになり授業を支援するという学生スタッフの長期に渡る活動のあり方が影響を与えていた.

  • 荒木 淳子, 高橋 薫, 佐藤 朝美
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 48 巻 2 号 p. 311-320
    発行日: 2024/08/10
    公開日: 2024/07/26
    [早期公開] 公開日: 2024/04/05
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,高等学校で探究学習を行った経験と大学での学び,キャリア探索との関連を明らかにすることである.全国の4年制大学1,2年生を対象にWeb アンケート調査を実施し,高等学校での探究型授業経験と,大学でのキャリア探索,授業プロセス・パフォーマンス,ライフキャリア・レジリエンスとの関連を調べた.255名の回答を分析した結果,高校時代にSGH (スーパーグローバルハイスクール)/SSH (スーパーサイエンスハイスクール) ともに経験した回答者は環境探索の得点が有意に高く,SGH/SSH ともに経験した回答者とその他の探究型授業をした回答者は探究型授業経験のない回答者よりも自己探索の得点が有意に高かった.一方,主体的な学習態度である授業プロセス・パフォーマンス,ライフキャリア・レジリエンスに有意な差は見られなかった.

  • 東南 裕美, 池田 めぐみ, 中原 淳
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 48 巻 2 号 p. 321-333
    発行日: 2024/08/10
    公開日: 2024/07/26
    [早期公開] 公開日: 2024/07/01
    ジャーナル フリー

    本研究は,企業内ファシリテーターによるサーベイフィードバック型組織開発行動尺度を開発し,尺度の信頼性および妥当性を検証することを目的とする.サーベイフィードバック型組織開発行動とは,組織調査を行い,その結果をチームや職場にフィードバックすることを通じた組織開発行動のことを指す.先行研究や予備調査に基づき,50項目の項目案を作成し,民間企業に勤める企業内ファシリテーターへの質問紙調査を実施した (N = 500).探索的因子分析の結果,「相互理解の促進」「的確な課題設定」「ボトムアップ型の計画策定支援」「配慮ある情報伝達」「話し合い時のプロセスの観察」の5因子36項目が抽出された.5因子に共通して影響を及ぼす高次因子「サーベイフィードバック型組織開発行動」を仮定した2次因子構造モデルについて,構造的妥当性を検証した結果,適合度は良好であった.また,各因子の信頼性,基準関連妥当性が確認された.

  • 袁 通衢, 田口 真奈
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 48 巻 2 号 p. 335-346
    発行日: 2024/08/10
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    本研究では,中国で日本語を学ぶ大学生を対象に,授業外での自律的なOER (Open Educational Resources) 利用行動に関わる自律学習能力,メディア情報リテラシー (MIL) および学年から4つの学習者タイプを作成し,自律的なOER利用行動に影響を与える要因を質問紙調査 (有効N = 597) を用いて学習者タイプごとに検討した.「他者」・「OERの設計や質」・「利用意図」の3要因が3段階のOER利用行動 (計画・遂行・自己内省) に及ぼす影響を学習者タイプごとに調べた結果,いずれの学習者タイプも「利用意図」からの影響がみられた一方,自律学習能力とMILが低い学習者タイプの場合には「他者」と「OERの設計や質」からの影響も確認された.「利用意図」への影響については,いずれの学習者タイプも「他者」が「OERの設計や質」を介して間接的に影響を与えていたが,低学年に属する学習者タイプの場合には「他者」からの直接的な影響も確認された.これらの結果から,自律的なOER利用行動を促す方策を提示した.

  • 山本 良太, 杉本 昌崇, 佐藤 智文, 平野 智紀, 石橋 純一郎, 山内 祐平
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 48 巻 2 号 p. 347-362
    発行日: 2024/08/10
    公開日: 2024/07/26
    [早期公開] 公開日: 2024/04/11
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,特に教科担任制が敷かれる中学校において導入された1人1台端末の活用を支える教員を取り巻く教員コミュニティに着目し,その具体的な様相を明らかにすることである.そのために相対的に端末を高頻度に活用する中学校に所属する教員を対象としたインタビュー調査を行った.分析の結果,調査対象校では,①端末活用に向けた教員コミュニティの活動,②端末活用による新しい教室内コミュニティの創出,③校内のコミュニティの活動を支える環境,があることが分かった.さらに,④端末活用を支える校外からの援助,もまた教員の端末活用には重要であることも分かった.端末活用を支える中学校における教員コミュニティとは,これまでとは異なった様相となる可能性があり,教科による分業が生じやすい教員コミュニティをどのように変化させていくのか,また教員と生徒が共に成長する教室内コミュニティをどのように作り上げていくのか,という観点が今後重要となることが示唆された.

教育実践研究論文
  • 大橋 均
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 48 巻 2 号 p. 363-380
    発行日: 2024/08/10
    公開日: 2024/07/26
    [早期公開] 公開日: 2024/05/01
    ジャーナル フリー

    本研究は,学びのユニバーサルデザイン (Universal Design for Learning;UDL) の理論を踏まえた授業デザインをもとに,小学校算数科の授業を設計・実践し,効果の検証を行ったものである.その結果,児童はそれぞれの学習方法 (一斉授業・一人学び・協同学習) の持つ良さを理解し,それらを選択することで,わかる,できるという実感を持ち始め,自らの学びのかじ取りを試みる姿が示された.また,学習の理解を深めるために,同級生や教師に援助要請を出せる割合が高まることや,学力面では一時的に当該授業内の知識・技能に限り,その獲得を促す傾向等が示された.これらの結果から,本研究で用いた授業デザインが発達支持的生徒指導の場としての授業づくりの一助となる可能性が示唆された.

  • 佐々 裕美, 向後 千春
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 48 巻 2 号 p. 381-390
    発行日: 2024/08/10
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    企業内技術研修における研修転移への影響要因を時系列的に説明するモデルを構築し,研修転移への影響要因の強さを研修終了直後および半年後の2時点で実施した受講者アンケート (対象研修103講座,回答数1,441件) により評価した.まず,研修内容を業務で活用した実績の評価手法を,回答の信頼性と評価の効率性を重視して考案した.次に,この手法を適用したアンケートを実施して,研修転移をしようとする意志に影響する要因間の関係を共分散構造分析により分析した.その結果,研修転移意志に対する職場環境の影響は,業務での活用実績の高い群と低い群とで有意差がなかった.一方,研修転移意志に対する受講成果の影響については,活用実績の高い群が低い群より有意に高かった.このことは,研修直後の理解度や満足度が高い受講者は,職場の支援に依存するよりも,自律的に研修転移を起こす傾向が強くなることを示唆している.

  • 勝又 あずさ, 河井 亨
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 48 巻 2 号 p. 391-410
    発行日: 2024/08/10
    公開日: 2024/07/26
    [早期公開] 公開日: 2024/05/16
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,大学のキャリア教育へのキャリア構成理論の応用による,学生の自己構成プロセスを探索的に検討することである.対象の授業にキャリア構成インタビューを実装し,学生19名の授業8回の記述データをM-GTAを援用し分析した結果,5カテゴリー・21概念が生成された.学生は,授業のながれに沿って次の4つのカテゴリー,【1.LCへの問題意識と関心】,【2.経験の認識と納得】,【3.自己のLCの理解】,【4.自己の構成への展望】を往来しながら{内省活動による探索}を行い,随所で{相互作用による探索}が影響する『相互学習による自己構成』プロセスが示された.すなわち,本授業が企図したキャリア構成のながれ「構成・脱構成・再構成・共構成」の「構成・脱構成」へと推移したことが確認された.「構成・脱構成」はキャリア構成の途上であり,低年次の学生のキャリア構成を支援するためには,教育 (正課) と支援 (正課外) の連動が重要であることが示された.

  • 髙橋 幸太郎, 赤松 大輔
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 48 巻 2 号 p. 411-421
    発行日: 2024/08/10
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    物理学習は,その難しさから多くの高校生に忌避される傾向にある.本稿では,この難しさの原因を「誤概念」の視点から解釈し,物理概念への概念変容を促す授業デザインを提案し,その効果を実践的に検討した.本授業デザインは,物理概念と誤概念の対立 (授業前半) と周辺概念との関連付け (授業後半) を中心に構成し,これら2点の効果を高めるために周辺概念に関する復習 (宿題) の工夫を取り入れた.分析の結果,物理概念の理解度と自己効力感が実践の前後で向上した.さらに,介入前の自己効力感による調整効果を検討した結果,自己効力感が高い生徒に比べ,低い生徒の方が授業実践による物理概念への概念変容がより促進され,自己効力感の抑制的な調整効果が見いだされた.これらの成果は,物理が苦手な高校生の概念変容を促したという点で物理教育研究に,概念変容に対する自己効力感の調整効果を示唆したという点で概念変容研究に,それぞれ意義が生じると考えられる.

教育システム開発論文
  • 和久 友親, 田村 哲嗣, 川瀬 真弓
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 48 巻 2 号 p. 423-435
    発行日: 2024/08/10
    公開日: 2024/07/26
    [早期公開] 公開日: 2024/05/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,学習者が学習した内容を各学習者の理解状態に応じて定着させるために,BERT (Bidirectional Encoder Representations from Transformers) とEmbedRank++といった人工知能技術・情報技術によって穴埋め・選択問題を自動生成し,理解度に合わせて出題するウェブシステム「AI道場」を開発した.本稿では,本システムの開発の内容と大学講義「多変量解析」において「AI道場」を利用した学習者へのアンケート調査結果を報告する.本システムの開発内容の有効性を確認するため,自動問題生成結果を理解度に応じて出題した場合と自動問題生成結果をランダムに出題した場合とで理解度に差異があるかを確認した.その結果,理解度に応じて出題した場合において学習者が自認する習熟度の向上が見られ,本研究のシステムが有効である可能性が示された.

資料
  • 高橋 陸斗, 鈴木 修斗, 梅村 拓未
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 48 巻 2 号 p. 437-446
    発行日: 2024/08/10
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    小学校における掲示物に関する研究の多くは,掲示物を内容別に分類する教師の視点に焦点を当ててきた.しかし,実際に児童が掲示物をどのように見ているのかはほとんど注目されず,これにより教師の掲示意図と児童の掲示利用にずれが生じている可能性が考えられる.本研究では掲示の利用状況を児童の視点で検討すること (研究Ⅰ) と,児童の視点を取り入れた新たな分類で掲示を検討すること (研究Ⅱ) を行った.その結果,児童の掲示物に対する関わり方は,「活動や組織行動の指針」「活動の記録や成果」という2因子構造であった.また,実際の掲示実態を分析するために,教師視点・児童視点の分類を統合させた4種類の掲示項目から検討することで,それぞれの掲示量に学校差があることが確認された.さらに,学級の掲示状況を4クラスターに分けることができ,学校・学級によって異なる掲示利用の傾向がある可能性も示唆された.

  • 三和 秀平, 湯 立, 長峯 聖人, 海沼 亮, 外山 美樹
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 48 巻 2 号 p. 447-455
    発行日: 2024/08/10
    公開日: 2024/07/26
    [早期公開] 公開日: 2024/05/28
    ジャーナル フリー

    本研究は大学生のテストに向けた学習場面に着目し,制御焦点に沿った方略を有効であると評価するのかを検証した.制御焦点理論で提唱される促進焦点または防止焦点の特徴を有した架空の人物を呈示し,その人物に対して様々な方略の有効性の評価を求めた.その結果,促進焦点の特徴を有した人物には熱望的な方略が,防止焦点の特徴を有した人物には警戒的な方略が,それぞれ有効であると評価される傾向にあり,大学生は制御適合理論に沿った方略が有効であるという知識を有していることが示唆された.ただし,予想通りの傾向がみられない方略もあったため,理論に合った判断がされる/されない方略の特徴については今後の検討が望まれる.

feedback
Top