「探究的な学習」の質保証という課題に対し,包括的な整理を試みた.すなわち,1970年代以降の汎用的・抽象的能力への注目と,「総合的な学習の時間」の成立,さらには,近年の学習指導要領改訂における探究概念の拡張と,教科との連動,情報活用能力との統合的育成といった新たな方向性である.探究的な学習の質に関しては,多層的な観点からその構成要素を提示するとともに,メタ認知・自己調整・自律性といった高次能力の育成が探究の成果であることを示した.加えて,情報活用能力や生成AIリテラシーと探究プロセスとの相互作用,自己の在り方やエージェンシーの重要性にも言及した.質保証に向けては,オーセンティックな学習活動と省察的なアプローチの統合,探究を支える環境要因,情報活用力・思考力・メタ認知力などの育成などが不可欠であると論じた.最後に,質保証に関わる要因の複雑性について指摘し,今後の研究と実践の方向性を展望した.
本研究では,初等中等教育における探究学習に関する先行研究をレビューし,その動向と課題,展望を明らかにした.「探究学習の定義」「探究学習によって育成される,基盤となる資質・能力」「探究学習のデザイン」「探究学習におけるICTの活用」の4つの視点から国内外の先行研究のレビューを行った.これらのレビューの結果をもとに,今後の教育工学研究に求められる実践的,研究的課題について提案した.
生き物のような振る舞いや社会性を備えた〈弱いロボット〉が子どもたちの教室に入り込んだとき,そこでどのような関わりや学びが生まれるのだろうか.本研究では,子どもたちと共に生活しながら,一緒に成長する弱いロボット〈Toi〉を開発し,共生型STEAM学習環境としての可能性を探ることを目的とする.従来のロボット教材の多くがキットとしての組み立てや構築主義的アプローチに基づくプログラミング学習を重視してきたのに対し,〈Toi〉はあえて「弱さ」を備えることで,子どもたちの協働や愛着を促し,社会的構成主義に基づく継続的な学びを生み出す点に特徴がある.本論文では,2種類のフィールドワークを実施し,参加児童および教員への調査を通じて,〈Toi〉に対する愛着の形成が継続的な学びを支え,さらに〈Toi〉を媒介として子ども同士の協働的な学びが生まれることを確認した.
本研究の目的は,自由研究の課題設定と計画立案の支援を設計し,その有効性について検討することである.小・中学生を対象に,個人的な好みを手がかりに課題を設定し,「理科の考え方」を取り入れた計画立案を支援するワークショップを実施した.参加した児童・生徒に対して,ワークショップ前後に質問紙調査を行い,任意で実際に取り組んだ自由研究の成果物のコピーを提出してもらえるように依頼した.参加した児童・生徒は自由研究にうまく取り組めるだろうという期待を持つようになった.また,実施後の自己評価でも,過去の自由研究よりも課題設定にうまく取り組むことができたと感じていた.さらに,実際の成果物の評価からも,課題価値を認識したテーマを設定し,「理科の考え方」を発揮した自由研究に取り組むこともできたことが示された.結果をもとに,実践の有効性と限界点について論じる.
本研究の目的は,高校の情報科と生物科を横断した探究型授業を対象として,課題の設定を支援することで学際的思考の育成を目指した教育実践の開発と評価をすることである.具体的には,生徒の研究スキル,学際的思考,および探究に対する認識はどの程度変容するか,課題の設定の違いが学際的思考にどのような影響を与えるのかを明らかにする.量的・質的な分析の結果,実践の事前・事後において,研究スキルにおける「研究者スキル」,学際的思考における「各教科の固有性の知識」などの知識面について有意に向上した.また,授業を通して,生徒の探究に対する認識が,「課題の設定」から「整理・分析」「知識・理解の深化」などに変容したことがわかった.全体として,教科横断的な課題の設定をしていた生徒ほど,学際的思考を向上させていたことが示唆された.
本稿では,教員の認識および児童の認識の変容の観点から,学校全体で個人探究を推進している都内公立小学校の取り組みを評価することを目的とした.そして,個人探究を経た児童の探究の学習過程に対する認識,教員の職務や教員の役割,負担に対する認識に着目し,これらの関係を分析した.その結果,児童の探究の学習過程に対する認識は有意に高い状態を維持,または,有意に向上した.教員の児童主体の授業をしている認識や,児童とともに授業している認識が有意に高くなった.また,教員のワークライフバランスに対する認識は有意に高い状態を維持していた.そして,教員の心身の健康に対する認識には悪影響を及ぼさなかった.以上から,個人探究の取り組みを経て,児童主体の授業実践が増加したことが示唆された.また,この取り組みは教員に過度な負担を与えず,持続可能な取り組みであったことが示唆された.
小学校において小大公連携による地域課題解決型プログラミング教育を取り入れたクラブ活動を実施した.そして,児童のプログラミングに関する意識やコンピュータ活用に関する意識,さらに仲間・家庭・地域に対する意識が向上したかの検討を行った.その結果,児童は地域の課題を発見し,それを解決するためのプログラムを考案する過程で,知識・技能を習得し,思考力や表現力を発揮しながら主体的に学ぶ姿が見られた.また,プログラミングやコンピュータの活用に関する意識には有意な向上が見られた.仲間・家庭・地域に対する意識については,もともと高い水準であったため,有意な変化は確認されなかった.一方,授業の感想から児童の地域に対する意識が向上したことが示唆された.
学習者が学習活動を自己決定しながら学ぶ授業では,教師は学習者1人1人の学習状況を把握し,指導や助言を行うことが重要となる.近年,めあてや振り返り等の学習状況をクラウド上のスプレッドシート (以下,「学習シート」と称す) で可視化する試みが見られ,教師は記入された情報をもとに,個別指導に活用している.本研究は,教師が学習状況を把握するための,クラウド上の学習シートの項目と活用の実態を明らかにすることを目的として,学習シートに示される項目と,その活用に関する質問紙調査の分析を行った.結果,15のラベルが付与され,学習者の識別情報,学習の目標,学習の指針,学習の進捗,学習の振り返り,という5つのカテゴリが作成された.学習シートは,教師が必要に応じて項目を設定でき,その上で,学習の目標や振り返りをリアルタイムで把握する機能や,学習の指針や進捗などの動的な学習状況を把握する機能を持つ可能性が示唆された.
高等学校の教員が,授業を通じて生徒の資質・能力がどれくらい高まっていると認識しているかを調査した.本研究では,高等学校で導入された「総合的な探究の時間」(以下,単に探究学習とも表記) と,近年広まりつつある「授業でのICT活用」の2つの要因に着目し,大学進学率で分類した学校タイプを考慮した分析を行った.その結果,以下の3点が明らかになった.第一に,学校タイプに関係なく,多くの生徒が問いを立てて情報を収集し,まとめ・発表を行う一連の探究プロセスに取り組むほど,また,生徒と教員が授業で多様なICT活用を行うほど,教員は生徒の資質・能力の向上を実感する傾向がある.第二に,生徒の資質・能力の種類別にみても,探究プロセスに取り組む生徒が多いほど,教員はその向上を認識している.第三に,授業での教員によるICT活用は,生徒の資質・能力が高まっているという実感に関連がない一方,生徒が関与する多様なICT活用の頻度が高いほど,教員は生徒の資質・能力の向上を実感する.探究学習の効果の一部は,授業でのICT活用の効果に吸収されることから,探究学習とICT活用が相互に関連し,生徒の資質・能力向上に対する教員の認識に正の効果をもつ可能性がある.
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