日本教育工学会論文誌
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最新号
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巻頭言
総説
  • 小柳 和喜雄
    2024 年 48 巻 4 号 p. 595-610
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2024/12/20
    ジャーナル フリー

    2015年から10年の間に,教員養成や現職研修には何が求められ,どのような取り組みが行われ,研究等が進められてきたのか.本論では,教育の情報化と関わる国の教師教育政策,論文誌に見る研究動向,国際的な教育の情報化と関わる教師教育の動きと研究動向について調べ,考察をしている.結果として,教師教育政策で求められている養成と研修のそれぞれの組織的な取り組みやその連携などに言及した研究はあまり見られなかった.国際的な教育の情報化と関わる教師教育の動きとしては,教師に求める資質能力の表現の仕方が変わり,そこに見方考え方の変化が読み取れた.最後に国際的な教師教育の研究の動きとしては,教員養成の学生や教師がテクノロジとどのように向き合っていくか,COVID-19の経験も経たうえで,学習者中心の学習デザインやそこで求められる教育者の役割などに関心を向けた研究が行われている傾向が明らかになった.

展望
  • 坂本 將暢, 古田 紫帆, 三井 一希
    2024 年 48 巻 4 号 p. 611-623
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2024/12/20
    ジャーナル フリー

    本稿では,まず,特集号のテーマである「1人1台端末時代の教員養成と現職研修」にもとづいて,「1人1台端末」と「教員養成および現職研修」に関わる約10年前の特集号の内容を確認した.その上で,この10年間での社会的変化や学校や教員を取り巻く状況の変化について言及する.また,2021年から2024年本特集号までの本学会誌で発表された「教員養成」と「現職研修」に関する研究について簡単にレビューした.さらに,今後期待される,1人1台端末時代の「教員養成」と「現職研修」をテーマにした論文を展望した.教員養成では「教員志望学生の学びの多様化」「教員の養成・採用におけるニーズの多様化」,教員研修では「対面・オンライン/同期・非同期のような研修のスタイル,プログラム,証明書の多様化」「研修で用いるツールの多様化」を挙げた.この先10年では,本学会における教師教育の課題を乗り越えることを指向しつつ,社会の期待に応えたり問題の解消に努めたりする研究や,学会内で論争を繰り広げたり社会に課題を投げかけたりする研究が共有されることを願う.

論文
  • 熊谷 理人
    2024 年 48 巻 4 号 p. 625-637
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2024/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,公立小中学校に導入された教育ダッシュボードシステムの活用状況及び,その活用頻度と教員のジョブ・クラフティング (JC) の程度との関連を明らかにすることである.教員向け質問紙調査の結果から,ダッシュボードはICT機器とは異なる世代・性別で活用頻度の低下がみられること,教員のJCの程度がダッシュボードの活用頻度と関連していること,特にチームレベルのJCがダッシュボードの活用頻度と強い関連があること,個人レベル,チームレベル双方で高い水準でJCを行っている教員の割合が高い学校でダッシュボードの活用頻度が高いことが明らかになった.本研究の知見から,新しいシステムを行政のトップダウンで導入する際はパイロット校の指定や集団的に実践の価値を意義付けるような働きかけと同時に,教員個人レベルで実践の工夫を認めるような裁量を残す運用をすることが活用につながることが示唆される.

  • 坂本 將暢
    2024 年 48 巻 4 号 p. 639-650
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2024/12/20
    [早期公開] 公開日: 2024/10/22
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,高等学校でICTを利用した授業を分析し,ノートや作品等の「共有」がもたらす教育的意義について検討することである.そこで本稿では,高等学校の世界史と化学のタブレットが使用された授業を対象に,解釈学的現象学に立ち,1) 授業を観察しながらフィールドノート授業記録を作成する,2) 授業記録から語を切り出したり単語や短いフレーズによる記述的コーディングを行ったりする,3) パターン・コーディングをした後,4) テーマを生成するという手順で分析した.その結果,授業の「ノートの見せ合い」に該当すると考えられる「個人作業の成果の共有」の教育学的意味として,1) 恥ずかしがる余地のない共有,2) 共有と取捨選択による一部/全体の2次利用,3) 参照のための公正な採用基準を明らかにした.本稿ではさらに結果を踏まえて,共有の有する残酷さを認めた上での1人1台端末時代における共有の再考,単純で機能的な共有に陥らないための授業のあり方,そして授業の中で生徒が主体的に成果物を参照できる共有の意義について考察した.

  • 堀田 雄大, 中野 裕司, 合田 美子
    2024 年 48 巻 4 号 p. 651-662
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2024/12/20
    [早期公開] 公開日: 2024/10/08
    ジャーナル フリー

    本研究では,教員がオンラインを活用して自律的な学習を進める教員研修を行う際に必要となる手立てを得るため,自己の教育課題に関するオンデマンド動画を選択・視聴し,視聴後の振り返りに対するコメントを行う研修プログラムを開発・実施した.研修後のアンケートとインタビューの回答から,プログラムの有効性と,コメントの投稿を促すためのナッジによる働き掛けの効果を分析した.その結果,研修後のアンケートの回答からは研修に関する肯定的な評価が確認できたが,積極性に関する項目ついては改善の必要性が示唆された.他者コメントを行う活動では,肯定的な内容の投稿が学習者間の親近感を促進したり,動画視聴への動機付けにつながったりする可能性が示唆された.その一方,学習者間の交友関係等の影響によるコメントのしづらさも確認された.ナッジについては,グループへの貢献を意識するなど,コメントを投稿する行動につながる効果がみられた.

教育実践研究論文
  • 若月 陸央, 齊藤 陽花, 佐藤 和紀
    2024 年 48 巻 4 号 p. 663-674
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2024/12/20
    [早期公開] 公開日: 2024/11/12
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,情報端末を活用した個別最適な学びの実践に影響を及ぼす授業構成要因と教師が用いる教授知識を明らかにすることである.そこで教師志向性質問紙を用いて,自律性支援を志向することが確認された教師7名に対して半構造化インタビュー調査を行った.吉崎 (1984) の授業構成要因の枠組みを参考に分類した結果,②子どもの実態の把握 (既有知識や関心,態度など) ⑤授業者の教育観,⑥教材研究,⑧学習指導法 (学習過程,見方・考え方など) の要因が情報端末を活用した個別最適な学びの実践に影響を及ぼしている可能性が示唆された.教授知識 (TPACK) で分類した結果,教育に関する知識の重なる①教育 (教職) に関する知識 (PK),④教育的内容知識 (PCK),⑤技術と関わる教育的知識 (TPK),⑦技術と関わる教育的内容知識 (TPACK) が活用されていることが示唆された.

  • 豊田 大登, 北澤 武
    2024 年 48 巻 4 号 p. 675-693
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2024/12/20
    [早期公開] 公開日: 2024/10/07
    ジャーナル フリー

    本研究では都内公立小学校のICT推進校において,教員のICT活用指導力を高めるために実施されていた取り組みを評価した.そして取り組みを相互連関モデル (CLARKE and HOLLINGSWORTH 2002) の外的領域へ以下の5つの観点から整理した.1) 働き方改革,2) 管理職によるICT活用の推進,3) 人的・物的資源の充実,4) 教員研修の充実,5) 研究推進委員会.この取り組みの評価を行うために,勤務経験,教員のICT活用指導力に対する認識,ICTを活用した教育に関する価値観に着目し,これらの関係を分析した.その結果,ICT推進校に勤務1年目である教員は,授業にICTを活用して指導する能力の認識が向上し,勤務2年目以降の教員は,児童のICT活用を指導する能力の認識が有意に向上した.また,ICT活用指導力は,勤務2年目以降の教員において構成主義的教授・学習観と関連することが明らかになった.

資料
  • 家元 瑛基, 池之上 勇斗, 北澤 武, 益川 弘如
    2024 年 48 巻 4 号 p. 695-707
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2024/12/20
    [早期公開] 公開日: 2024/10/24
    ジャーナル フリー

    本研究では,GIGAスクール構想の実施前から児童生徒1人1台のICT端末の活用に取り組んできた自治体を対象に,ICT端末を活用した児童生徒の課題や目的に応じた学習活動に着目した.第一に,小5~中3の児童生徒の情報活用能力の特徴および教員のICT活用指導力について比較分析した.第二に,教員のICT活用指導力について,学校種,年齢,教員歴,公私における端末利用経験年数別に分析した.その結果,次の特徴が明らかになった.1) 小学5,6年生に比べて,中学生の方が情報活用能力を有していると自認していた.2) 課題や目的に応じた学習活動について,教員が指導できるという自認よりも,児童生徒ができると自認している方が有意に高い傾向にあった.3) 小学校教員に比べて中学校教員の方が,ICT活用指導力を有していると有意に自認していた.4) 教員のICT活用指導力は,教員歴の中群,公私における端末の使用歴は高群の方が有意に高く自認していた.

  • 東京都内の私立高校の事例
    塚本 浩貴, 染谷 和幸, 橋本 雄志, 青木 理
    2024 年 48 巻 4 号 p. 709-717
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2024/12/20
    [早期公開] 公開日: 2024/10/22
    ジャーナル フリー

    コロナ禍では,感染拡大防止を目的として多くの学校がオンライン授業を実施した.度重なる感染状況の悪化はGIGAスクール構想の実現を推進し,1人1台の端末環境は予定を繰り上げて整備された.一方,教育現場は状況の変化に対して応急的な措置を講じることに終始し,事前の計画に沿った教員研修や,その効果測定等を満足に行えない状態が続いた.本稿では,2020年4月~6月に東京都内の私立高校で実際に行われた,オンライン授業の実施に向けた研修等,その具体的経緯を報告する.これらの緊急対応は,原則として文部科学省から発出される通知・事務連絡等に沿うものであり,緊急事態宣言の発令を含む当該期間には必要性が高いものだった.今後も自然災害が発生した際には,子どもたちが長期間にわたり学習機会を失う可能性がある.学校教育を一刻も早く復旧させるためには,設備等の水準を向上させること,緊急業務の集中と分散を図ること,学校関係者の心理的安全性を確保することが求められる.

  • 中村 駿, 前田 菜摘
    2024 年 48 巻 4 号 p. 719-727
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2024/12/20
    [早期公開] 公開日: 2024/10/01
    ジャーナル フリー

    本稿では,TPACKに関する海外文献から,その概念枠組みと近年の議論を整理した上で,実証データを扱った日本のTPACK研究をレビューし,研究の現状と今後の研究への示唆について検討することを目的とする.その結果,海外では,変容的な認識論や最新の技術や教育のトレンドを踏まえた新たな枠組みが示されていること,また,TPACKを測定するためのさまざまな手法や専門性開発の方法が考案されていること,が明らかになった.また,日本の研究を整理した結果,その多くはKOEHLER and MISHRAの7つの知識領域に基づく量的・質的な評価方法を用いており,TPACKの視点から教員養成や現職教育の成果も検討されてきていることが明らかになった.今後の研究への示唆として,より包括的な視点でTPACKを捉えた研究,専門性開発の研究の充実,技術の定義の明確化の3点を示した.

  • 山崎 智仁, 水内 豊和
    2024 年 48 巻 4 号 p. 729-738
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2024/12/20
    [早期公開] 公開日: 2024/09/24
    ジャーナル フリー

    知的障害特別支援学校において,GIGAスクール構想を推進し,子どもたちの情報活用能力の向上を目指した実践や研修会を実施するとともに,教師と保護者を対象にGIGAスクール構想やICT活用に関するアンケートをそれぞれ実施した.教師へのアンケートの結果,教育実践や研修会の実施に伴い,GIGAスクール構想の目標や内容を理解したり,ICTの活用に自信を持ち始めたりする変容が見られた.一方,ICTの活用に自信がない教師は,研修会に参加しても自信が高まりにくいことが分かった.保護者へのアンケートの結果,教師以上に教育ICT環境を活用した教育を行うことや情報活用能力の向上を目指すことが大切だと感じていることが分かった.知的障害のある子どもたちの自立や社会参加に向け,ICTへの期待があることが考えられた.そして,GIGAスクール構想を推進する方法として,端末の持ち帰りが子どもだけでなく,教師や保護者にとっても大きな役割を持つことが考察された.

  • 根岸 千悠
    2024 年 48 巻 4 号 p. 739-748
    発行日: 2024/12/20
    公開日: 2024/12/20
    [早期公開] 公開日: 2024/10/11
    ジャーナル フリー

    本研究では,教職課程の受講生を対象に,中等教育現場における生成AIの活用に関する理解を促すことを学習の目的に,①生成AIを授業や校務で活用する場面を想定してプロンプトを考える,②生徒の生成AI活用に関するディスカッションを行う授業を実践した.受講生の事前・事後アンケートを分析した結果,生成AIの理解と活用に関する自己評価が有意に向上した.また事後アンケートの結果では,本授業の有用度と理解度に対する評価が高かった.各種ワークシートや自由記述を分析した結果,生成AIの有用性と限界,留意点について理解していることがうかがえた.一方で,生徒への生成AIの指導に関する自己評価は向上が見られず,生成AIの指導方法を学ぶ機会の設定や,生成AIに慣れていない学生のための支援,授業内だけでなく,生成AIを継続的に活用することを促すような工夫の必要性といった課題が見られた.

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