2024 年 106 巻 5 号 p. 128-139
洪水・土砂災害の発生リスクの評価のためには,森林土壌内の水分動態を斜面単位で推定することが重要である。本研究では,森林の特性に即した水分量分布や変動の再現を目的とし,比較的容易に取得可能なデータを用いてタンクモデルに基づいた構造の土壌水分変動モデルを作成し,精度の検証を行った。モデルは地上部を表す樹冠遮断モデルと地下部を表す直列タンクモデルで構成され,森林斜面中腹の深さ10,30,50,100cmの土壌水分量の変動をモデル化することを目指した。その際,土壌の孔隙組成や樹木根系による水分吸収が水移動に及ぼす影響をモデルに組み込んだ。はじめに2021年のデータに対し,モデル定数を同定した。このモデルに対して,モデル定数は変えずに2020年の降水量を入力値として与え,その結果からモデルの再現性を検討した。その結果,モデルとしての精度の高さが確認された。また,モデルによる樹冠遮断率と蒸発散量の計算結果を検討したところ,蒸発散量の季節変化を考慮する必要があるものの,深度別の土壌水分変動を概ね再現しており,本モデルは予測モデルとしての有用性が高いことが示唆された。