抄録
目的:P. edulis はフラボノイド C-配糖体(以下 C-グリコシルフラボン)などの二次代謝産物フラボノイドが豊富である.このためその抗不安効果の原因化合物はフラボノイドが妥当と考えられている.しかし P. alataの総フラボノイド含有量が P. edulis の半分にもかかわらず,両種は同様の抗不安効果を示した.このことに関しては,P. alata の抗不安効果には,フラボノイド以外に,別の生物活性物質(二次代謝産物)の関与が考
えられる.そこで今回は P. alata の抽出物の植物化学的成分の分析の歴史的プロセスにおいて,P. alata から,フラボノイド以外に,生物活性物質として,単離,同定(分析)されたステロイドおよびトリテルペノイドO-配糖体(サポニン)の植物化学分析,および薬理学的,生物学的活性効果について,文献調査を行った.そしてステロイドおよびトリテルペノイド O-配糖体(サポニン)の精神・神経効果への関与について考察した.
方法:第 29 報の引用文献 Noriega, et al. 「Passiflora alata Curtis: a Brazilian medicinal plant(ブラジルの薬用植物)」(2011)に使われた研究報文(文献)から,本報の資料を抽出した.これらの資料から,P. alata から単離,同定された生物活性物質として,C-グリコシルフラボン,ステロイドおよびトリテルペノイド O-配糖体(サポニン)をメインとして,その植物化学および薬理学的活性について,研究調査を行った.さらに P.alata の成分のテルペノイドサポニンに関する近年の研究報文資料を,Web 検索にて抽出した.
結果:Reginatto, et al. (2001)は P. alata の葉のエタノール抽出物の n-ブタノール画分(粗サポニン画分)をSilica gel カラム用いたクロマトグラフィーによって,5 つの化合物(配糖体)に分離し,MS および 1H-NMRの併用によって,それらの化合物の化学構造を同定した.Birk, et al. (2005)によると,14 種の Passiflora sp. のTLC フィンガープリントに示されたサポニンパターンとして,可視光下および UV366 光下で,P. alata の抽出物と参照物質の 3-O-β-D-glucopyranosyl-(1→2)-β-D-glucopyranosyl-oleanolic acid および quadranguloside のみが特色のスポットを示した.すなわち 14 種の Passiflora sp. の抽出物の中で,P. alata の抽出物は主な代謝産物として,サポニンを示したが,他の 13 種の代謝産物はフラボノイドであることを示唆した.Dutra,et al. (2023)は 1H-NMR 関連シグナル(代謝プロファイル)から,サポニンの quadranguloside, 3-O-β-Dglucopyranosyl-(1→2)-β-D-glucopyranosyl-oleanolic acidおよびビテキシン-2-O ラムノシドを同定した.そしてこれらの成分について,Passiflora sp. から,P. alata の識別に関与する代謝産物として特定した.Xu, et al.(2023)によると,テルペノイド生合成経路の 4 つの遺伝子(HMGR, DXR, HDS, SM)がすべて P. alata で高度に発現された.
結論:Passiflora sp. の抗不安効果,鎮静効果,抗うつ効果などの精神・神経効果の原因生物活性物質としては,C-グリコシルフラボンが考えられていた.P. alata については,P. edulis に比べて,フラボノイド組成が単純であり,その含有量が少ないことから,その原因物質として,他の生物活性物質の存在が考えられる.Reginatto, et al. (2001)が P. alata の葉のエタノール抽出物から同定した 5 つのステロイドおよびトリテルペノイド O-配糖体(サポニン)の中で,Reginatto, et al. (2004)による quadranguloside の定量結果,およびDutra, et al. (2023)の 1H-NMR 代謝プロファイリングによる P. alata の葉のエタノール抽出物からの 3 つの代謝産物の同定結果から,抗不安効果の原因物質としては,quadranguloside が有力と考えられる.しかしこの化合物の CNS 抑制効果(抗不安効果)に関する詳細な学術情報については,今回の文献検索から得られていない.