抄録
多くの微生物は, ある種の栄養制限下でポリヒドロキシアルカン酸 (PHA) をエネルギー貯蔵物質として蓄積する。PHAは合成プラスチックと同様に熱可塑性を有する生分解性ポリエステル (バイオポリエステル) であることから, 新しい環境調和型の高分子材料として期待される。典型的な微生物ポリエステルであるポリ [(R) -3-ヒドロキシブタン酸] (P (3HB) あるいはPHB) は硬くて脆いため, その用途が制限される。しかしながら, 鎖長のより長い3-ヒドロキシアルカン酸ユニットとの共重合ポリエステルを合成することで物性の優れた高分子材料を得ることができる。そのためには, PHA生合成について詳細な研究を行うことが重要である。このようにして得られた知見を基に, 遺伝子工学的・代謝制御工学的手法を用いて, PHAのモノマー組成を自由にコントロールできれば, 物性の優れたPHAの発酵生産と用途開発が可能となる。
また, 上記のようなエネルギー貯蔵物質や高分子材料としてPHBとは異なり, 約150ユニットサイズの低分子量3HBオリゴマー (OHB) が, 微生物から動・植物にいたるまでほぼ普遍的に存在することが知られている。実は, このOHBは無機のポリリン酸と複合体を形成してカルシウムイオンチャンネルを膜中に構築していることが明らかにされ, 細胞内へのDNA取り込み機構との関連性が注目を集めている。エステルオリゴマーの生理機能についてはまだ未知の部分が多いが, このOHBの細胞内での分子生理が徐々に解き明かされていくことで第5の生体高分子という概念が生まれるかもしれない。