抄録
高度不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸エイコサペンタエン酸, アラキドン酸, α-リノレン酸, γ-リノレン酸およびリノール酸の各メチルエステル (PUFA) の37℃における空気酸化を, クロロベンゼン均一溶液中およびTriton X-100ミセル水溶液中で行った。PUFAの酸化による基質減少速度は, 均一系溶液中では不飽和度の増加にともない増加したが, ミセル中では逆に減少した。酸素吸収量と基質減少量の比が不飽和度の増加にともない1から3.4まで増加したことから, ドコサヘキサエン酸メチルやエイコサペンタエン酸メチルなどのより高度の不飽和脂肪酸メチルエステル由来のペルオキシルラジカルは, リノール酸メチル由来のペルオキシルラジカルに比べより極性が強いと考えられる。ミセル水溶液中でのリノール酸メチルと他のPUFAの1 : 1混合基質の酸化で, PUFAとリノール酸メチルの酸化速度の比は不飽和度の増加にともない増加するのにも関わらず, 基質減少速度の和は逆に減少したことから, より高度の不飽和脂肪酸メチルエステル由来のペルオキシルラジカルは連鎖反応の進行にほとんど関与しないことが示唆された。ミセル中心に存在することのわかっているブチルヒドロキシトルエンのPUFAの酸化に伴う減少速度は, 不飽和度の増加にともない減少した。以上のデータは, より高度不飽和脂肪酸メチルエステル由来のペルオキシルラジカルはミセル中心から界面へ移動し, これにより連鎖停止反応が促進され, また連鎖成長反応が抑制されるため高度不飽和脂肪酸の酸化速度が減少するという考えを支持する。