労働安全衛生研究
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調査報告
産業化学物質のin vitro 反復ばく露毒性試験法構築に向けた試み-職業性膀胱がん関連物質MOCAを例とした単回ばく露との比較検討-
小林 沙穂 柏木 裕呂樹豊岡 達士
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2023 年 16 巻 1 号 p. 65-70

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抄録

in vitro毒性試験は,一般的に“単回”ばく露により実施される.一方,労働者の化学物質ばく露と関連した遅延性疾患 (例: がん) の背景には,“慢性的”ばく露が関連すると考えられる.そのため,反復ばく露による毒性評価は,作業現場のばく露形式に近い毒性情報として,労働衛生学的に有用となり得る.しかし反復ばく露によるin vitro毒性試験の実施例は限定的であり,単回ばく露との差異に関する情報は殆ど存在しない.

そこで本研究では,in vitro反復ばく露毒性試験法の構築に向けた基礎情報の取得を目的に,職業性膀胱がん関連物質MOCAを例に, 4日間のin vitro反復ばく露を行い,単回ばく露と毒性影響を比較検討した.その評価項目には,細胞毒性をはじめ,MOCA毒性発揮の引き金となるシトクロムP450 (CYP) 代謝酵素,がん細胞の増殖や生存と密接に関わるERK及びAKTの発現レベルを採用した.その結果,反復ばく露は単回ばく露と比べ細胞毒性が減弱化し,より低濃度でERKが活性化する場合があった一方,AKTや一部のCYP代謝酵素は,陰性対照群間に違いがみられた.in vitro実験系において,MOCAを例に反復ばく露は単回ばく露と異なる影響が生じる可能性を見出した点は,労働衛生学的にも重要な知見であり,in vitro反復ばく露毒性試験法の構築に向けた重要な一歩となると考えられる.

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© 2023 独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
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