地域漁業研究
Online ISSN : 2435-712X
Print ISSN : 1342-7857
論文
鯨肉のフードシステム
―鯨肉の市場流通構造と価格形成の特徴―
遠藤 愛子山尾 政博
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ジャーナル オープンアクセス

2006 年 46 巻 2 号 p. 41-63

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抄録

近年,冷凍・生鮮ともに鯨肉供給量は増加傾向にあり,消費需要の拡大が推し進められている。両者の製品としての特徴・価格の違いから市場では棲み分けができているとも言われるが,実際には品質・価格面で競合関係にたつことが多い。本研究は,冷凍・生鮮鯨肉の市場流通構造と価格形成システムを解明し,鯨肉流通で重要な役割を果たす中央卸売市場(名古屋市,大阪市,広島市,仙台市,大分市および福岡市中央卸売市場)における冷凍鯨肉,生鮮鯨肉それぞれ取扱いの実態をあきらかにする。さらに将来の消費需要拡大の可能性について検討をすすめた。冷凍捕獲調査副産物の排他的な流通構造と硬直的な価格形成システムは,販路の拡大を阻害し,消費需要の増加を困難にしている。鯨肉流通の一旦を担う中央卸売市場では,冷凍・生鮮鯨肉供給量の増大に対し,両者間で品質・価格競争を引き起こした。各市場の取扱鯨肉の種類や数量はその地域がもつ鯨肉食習慣や市場の集荷力の違いが大きく関係しているが,鯨肉という特殊な商品を扱う,卸売会社や仲卸業者等の意思決定も大きく影響している。また,鯨肉の取り扱いは卸売会社や仲卸業者のリスク負担が大きく,市場の2極化がすすんでいる。生鮮と冷凍製品は,単に商品としての違いだけではなく,生産主体,国家の生産活動への関与の度合いの違いが,その流通構造や市場価格に反映されている。今後,鯨肉供給量が増加した場合,冷凍・生鮮ともに消費需要の拡大が図れるかどうかについては,検討を要する。

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© 2006 地域漁業学会
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