地域漁業研究
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46 巻, 2 号
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論文
  • 白 銀平, 佐野 雅昭
    2006 年 46 巻 2 号 p. 1-21
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    中国において急速に発展を遂げているウナギ養殖産業について,その競争力を多様な角度からから,特に賃金条件ではなく産業組織と政策に着目して分析し,その将来展望にも言及した。

    中国は豊富なシラスウナギ資源,温暖な気候,潤沢な水と用地など恵まれた自然条件を有し,ウナギ養殖業において大きな潜在的可能性を持っていた。そこに華僑資本及び台湾と日本の先進技術が導入され,巨大な日本市場を対象として急速な展開を遂げたのである。また活鰻市場における台湾との競合を避けるため,安価な労働賃金を利用しつつ加工鰻として輸出する方向に産業展開を遂げてきた。そして鰻加工を輸出産業として成立させるために,国際水準の加工工場建設が進められ,同時に輸出補助金政策なども行われてきたのである。そこでは加工業を中核とする垂直統合化が進められ,力強い寡占化が進んでいる。こうした統合化は鰻養殖・加工産業に経営合理性を持ち込み,競争力を高めると同時に近代化を推し進める重要な契機となった。

    またこうした急激な発展と統合化の進展の背景として,政府の強力な支援策があったことも指摘したい。中国は国家的政策として一次産業におけるアグリビジネス化を図ってきているが,鰻養殖産業においてもこのことが貫徹されているのである。ただし野菜等の農産品と異なり鰻養殖業は水産養殖業固有の限界性を有している。今後も統合化・寡占化が進むことが考えられるが,それが野菜等と同様の展開を辿ることは考えにくいであろう。

  • ―老坝港(Laobagang)ノリ協同組織(Association)を事例として―
    高 健, 扬 正勇, 長谷川 健二
    2006 年 46 巻 2 号 p. 23-40
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    本論文では,中国江蘇省南通市の老坝港鎮に所在する老坝港ノリ協同組織のケーススタディを行っている。南通市は,扬子江に近い沿岸都市である。そしてノリ生産で有名な所である。この論文においては,協同組織(Association)の経済効果の分析を行い,この組織(Association)の成長と役割に関して簡単に紹介する。

    我々は,本研究におけるケース・スタディから次のような結論を導き出した。

    本論文でとりあげたノリ協同組織は,養殖業者の収入を上昇させ,地域経済の発展にとって好ましい状況を生み出した。それは,第一に,協同組織の設立によって,個々人のレベルでの利益の最大化をめざしたものから協同組織(Association)全体の利益の最大化を志向するレベルに養殖業者達の意志決定のあり方に変化をもたらしたことである。そして個々の合理性に基づく均衡の達成は,協同組織(Association)の合理性に基づく均衡の達成へと転換した。こうしたことによって,生産者達の間の激しい競争が現れた。第二に,協同組織(Association)は,取引コストを低減させることによって経済的成長を達成した。第三に,協同組織(Association)は,養殖業者達の交渉力を高め,養殖業者間の競争を弱めた。第四に,協同組織(Association)は養殖業者達の情報収集コストを節減することが出来た。

    著者は,今日,漁業者達の収入がしだいに増加し,漁業者間の激しい競争が存在するような時期に,政府が漁業者達の利益を守り,中国漁業経済の持続的発展を促進する上で,漁業者達の協同組織(Association)の発展を推進していく必要があると考えている。

  • ―鯨肉の市場流通構造と価格形成の特徴―
    遠藤 愛子, 山尾 政博
    2006 年 46 巻 2 号 p. 41-63
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    近年,冷凍・生鮮ともに鯨肉供給量は増加傾向にあり,消費需要の拡大が推し進められている。両者の製品としての特徴・価格の違いから市場では棲み分けができているとも言われるが,実際には品質・価格面で競合関係にたつことが多い。本研究は,冷凍・生鮮鯨肉の市場流通構造と価格形成システムを解明し,鯨肉流通で重要な役割を果たす中央卸売市場(名古屋市,大阪市,広島市,仙台市,大分市および福岡市中央卸売市場)における冷凍鯨肉,生鮮鯨肉それぞれ取扱いの実態をあきらかにする。さらに将来の消費需要拡大の可能性について検討をすすめた。冷凍捕獲調査副産物の排他的な流通構造と硬直的な価格形成システムは,販路の拡大を阻害し,消費需要の増加を困難にしている。鯨肉流通の一旦を担う中央卸売市場では,冷凍・生鮮鯨肉供給量の増大に対し,両者間で品質・価格競争を引き起こした。各市場の取扱鯨肉の種類や数量はその地域がもつ鯨肉食習慣や市場の集荷力の違いが大きく関係しているが,鯨肉という特殊な商品を扱う,卸売会社や仲卸業者等の意思決定も大きく影響している。また,鯨肉の取り扱いは卸売会社や仲卸業者のリスク負担が大きく,市場の2極化がすすんでいる。生鮮と冷凍製品は,単に商品としての違いだけではなく,生産主体,国家の生産活動への関与の度合いの違いが,その流通構造や市場価格に反映されている。今後,鯨肉供給量が増加した場合,冷凍・生鮮ともに消費需要の拡大が図れるかどうかについては,検討を要する。

  • ―マラウィ湖のティラピア(Chambo, Oreochromis spp.)を事例として―
    マティア ジョージ, 若林 良和, 竹之内 徳人
    2006 年 46 巻 2 号 p. 65-81
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    本論文の目的は,マラウィ湖で最も経済的価値を持つティラピア(Chambo)のマーケティング過程に注目して検討することである。特に,市場流通,加工およびマーケティングシステムに焦点をあてて,ティラピアのマーケティング効率を改善することに総体的な目標を置く。こうした改善によって,消費者には手頃な価格で魚を購入でき,また,漁業者にとっては収入の拡大につながる。

    マラウィ湖のティラピア漁獲量は減少していることから,効率的なマーケティングを展開することが漁業収入を拡大させる唯一の方法である。実際的には,品質の向上と新たな流通システムを確立することが不可欠である。現在,マラウィにおける魚類の流通は3つの段階の市場が存在する。大規模で商業的な漁業者は魚類を直接,消費者や小売業者に販売できるが,小規模な漁業者が魚類を販売するには,仲買人を通さなければならない。したがって,小規模漁業者に対する新しい流通システムを構築することが必要である。

    ティラピアのマーケティングに関しては,加工や貯蔵の施設の不足,販売基準や衛生管理の不徹底,季節的な魚価変動,金融資本の不足など,数多くの問題点がある。漁業者の組織化がスーパーマーケットや小売業者への直接販売を可能にするとともに,製氷設備や加工工場の設置により付加価値のついた製品を生産でき,漁業収入が増加できると考えられる。

  • ―国内産と輸入品に対する消費行動に関する経験的分析―
    デ・シルバ D.A.M, 山尾 政博
    2006 年 46 巻 2 号 p. 83-104
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    日本は巨大なシーフード購買力をもち,世界有数の輸入国であるが,本研究では消費者の消費習慣を再検討している。シーフード消費に対する研究は多いが,輸入品と地域的嗜好,製品の属性にもとづく消費者の評価,原産国および国産品に対する愛着・嗜好が及ぼす影響などについての調査はまだ十分ではない。この研究では,輸入品と国産品に対する消費者の購買行動,国内産に対する愛着・嗜好性についての地域的差異,それが消費行動に及ぼす影響について調査している。消費者アンケートを東京,大阪,広島で実施し,371人の消費者から回答を得た。全体としては,輸入シーフードに対しては肯定的な評価をしている。シーフードの消費は日本文化と深くかかわっているとはいえ,どのサンプル・グループも高い自国産中心主義を示してはいなかった。地域的にみると,大阪と東京の消費者には自国産中心主義的な傾向がみられた。この傾向と国産のシーフードを買いたいという意向との間には強い相関がみられた。日本の消費者は製品の属性にもとづいてシーフードを評価している。文化性や自国中心主義は輸入シーフードの評価に直接には影響を及ぼしていない。

  • ―インドネシアのペラブハンラチュ湾の小規模沿岸漁業における水揚げの時間的動態と使用漁具に関する事例研究―
    WIYONO Eko Sri, 山田 作太郎, 田中 栄次, 馬場 治, 有元 貴文, 北門 利英
    2006 年 46 巻 2 号 p. 105-124
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    使用漁具に関する漁業者の行動を理解するために,インドネシアのペラブハンラテュ湾の水揚げと使用漁具の時間的動態に関する研究を行った。ペラブハンラテュ湾における小規模漁業では,主な8種の魚を捕獲するために,5つのタイプの漁具が使われている。水揚げの種組成から,二つの特徴的な漁具のタイプを定義した。一つは単一種の標的魚を漁獲する漁具(手釣りと固定式刺し網)で,もう一つは複数の目的種を漁獲する漁具(まき網,流し刺し網,敷網)である。月々の水揚げ量と使用漁具はともに時間的に変動した。手釣りを除くと大抵の漁具は乾季により集中して用いられ,目的種の水揚げの増加と一致した。月々の多目的種漁具の使用と水揚げ量の間には有意な相関が認められた。しかし,単一種をねらう漁具の使用と水揚げ量の間には有意な相関は認められなかった。水揚げ量の不確実性を最小にするために,漁船のタイプと融通性に依存して,漁業者は異なる操業をするようになった。短期的(月々)には,使用漁具のタイプによって,漁業者は操業を減らしたり,目的種を変えたりして水揚げ量の変動に対応していた。一方長期的には,船の融通性に依存して,漁業者は他の漁具に変えて操業していた。

  • ―Community-Based Resource Managementを超えて―
    山尾 政博, 久賀 みず保, 遠藤 愛子
    2006 年 46 巻 2 号 p. 125-147
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    東南アジアでは,地域住民や資源利用者が資源管理に関する決定過程への参加の度合いが高まり,沿岸域資源管理に関する地方分権化が急速に進んでいる。多くの国で,多種多様な地方分権型・参加型アプローチを開発する努力を続けている。地域拠点型アプローチ(Community-based approach)は資源の持続的利用,資源分配の平等性,効率的な資源配分,平等な資源分配を実現するうえで最も効果的なものだと考えられている。しかし,沿岸漁業をめぐる社会経済的なドラスティックな変化が生じるなかで,CBRMモデルをさらに発展させる必要性がでてきている。本論文の課題は,第1に,地方分権化,住民参加,地方自治体の役割等を含めた,沿岸域資源管理の制度的な発展について議論することである。第2に,過去および現在のCBRMプロジェクトの実践を踏まえて,CBRMのモデル化への指針を呈示することである。第3に,地方分権型・参加型資源管理をとりまく制度的枠組みについて検討することである。こうした課題の検討を踏まえて,東南アジアにおけるCBRMの今後の方向性を明らかにしている。

  • サトリア アリフ, 佐野 雅昭, 島 秀典
    2006 年 46 巻 2 号 p. 149-165
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    インドネシアにおいて,地域拠点型漁業管理(CBFM)は長い歴史を持つが,それはスマトラ,ジャワ,スラウェシ,マルク,パプア,ヌサ・テンガラなどの各地区に存する島嶼部の伝統的な漁業共同体における慣習法に端を発している。こうしたCBFMに対して,法制度がどのように関わってきたのかを検討する。

    CBFMの制度的枠組みの変遷を以下の4つの段階に大きく分けて検討した。植民地時代,独立直後の時代,「新制度」の時代,「政治改革」の時代,の4つである。こうした時期区分ごとに法体系とCBFMの関わりを検討した結果,現在では中央政府がCBFMの推進政策を進めているにも関わらず,CBFMが国家の法体系上未だにきちんと位置づけられていないことが明らかとなった。すなわち,CBFMは国家法制上の位置づけがなく,いまだに地方における慣習法的存在に過ぎないのである。

    国家の法体系上にきちんと位置づけられていないため,CBFMは政策上強く支援される状況にない。そしてこのCBFMの法体系上の位置づけの弱さは,現実にCBFMが機能していく上での脆弱性を招いている。法体系が未整備であるためにCBFMは地方政府の水産資源管理及び沿岸域管理政策の上で強く位置づけられないでおり,政策上強化・推進されにくいのである。

    もし地方政府がCBFMを支援しその存在をさらに強化しようとするなら,CBFMは漁業管理政策としてさらに有効に機能するであろう。しかし現実はむしろ逆の状況にある。CBFMを法体系上実体のあるものにするために,国家としての法体系の整備と改革が必要であろう。

  • ―タイの地域開発における住民参加のあり方―
    チェンキットコソン ワンタナ, 山尾 政博
    2006 年 46 巻 2 号 p. 167-182
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    地方分権は,最近のタイ政府が取り組んでいる重要課題の1つである。政府は,中央から地域レベルにさまざまな行政権限を移管し,地域が責任をもって開発にとりくめるように,Ao.Bo.To.(Sub-district Administrative Organization)という名前の地方行政組織を設置した。地方分権化はまだ進行途上であり不完全なものであるが,Ao.Bo.To.は地域における沿岸域資源管理の管理主体となりつつある。住民の地域開発のための意思決定過程への参加が促されている。また,沿岸域資源の持続的利用を可能にするための参加型管理システムの構築がはかられている。

    タイのクラビ県にあるカオトン地域では,Ao.Bo.To.および地域住民は協力して自分たちの地域開発と資源管理を行っている。村および地域のリーダー達は,Ao.Bo.To.の管轄内にある陸域と海域について監視する権限を持っている。法律および条例にしたがって,違法活動に対して処置を実施できることになっている。つまり,沿岸地域および地域資源を保護するために境界内において自律的管理が可能になる。本研究は,地域住民とAo.Bo.To.との協同関係がいかに形成されつつあるかという形成メカニズムに注目する。効果的な地域資源利用計画を作成するためには,関係する諸機関,資源利用者,住民らの合意が必要である。本研究は,地域開発と沿岸資源管理のためのAo.Bo.To.及び地域住民との間の協同関係を形成するメカニズムを明らかにするのを目的にしている。

  • ―地域漁業への影響―
    オリバ ルイス, 山尾 政博, ペレス ネルソン
    2006 年 46 巻 2 号 p. 183-199
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    “Community-based Fisheries Management (CBFM)”(地域拠点型漁業管理)の概念に基づき,チリ政府は底棲資源の利用と管理を担う新しいシステム(Management and Exploitation Areas (AME) for Benthic Resources)の導入をはかっている。AMEはチリで最も革新的な沿岸域水産資源の管理手法といわれている。最初にAMEを導入した地域がよい結果を見せているため,AMEの導入が全国的に進んだが,AMEが地域漁業にどのように根付き,あるいは,それがどのような影響を与えるのかについては明らかにはなっていない。本論文は,チリ南部の第10州の沿岸零細漁業を事例に,AMEの導入がどのように進み,地域漁業にいかなる影響を与えているかを検討するのを目的としている。具体的な課題は,第1に,第10州におけるAMEを対象に,SWOT分析を実施することである。第2に,AMEを発展させるための漁業者の認識および関心について明らかにすることである。第3には,AMEの実施に大きな影響を与える漁業団体について検討することである。第10州の115漁村を対象にキーインフォーマントインタビューを実施し,SWOTとSpearman bivariate分析を用いた。

    第10州は,国内最大の底棲生物の水揚げ産地であり,それを漁獲対象にした漁業者が多数いる。同じ海域を利用する漁業者の団体が多数あるため,AMEが対象とする海域を確定するのが困難になることもある。一般的には,AMEが設定される海域は漁村に近接しているが,第10州では漁村から遠く離れたところにAMEを設定せざるをえなくなっている。そのためAMEの監視費用が増加している。一方,AMEの設定は,マーケティングの拡大化と安定化には貢献している。AMEの設定初期には政府からの支援が必要であるが,これが必ずしも十分ではない。AME受益者の関心は,監視費用,マーケティングの向上,違法捕獲である。AMEを実施する上で重要な要因は,設定海域からの排除,マーケティングの安定と向上,地域社会に対する訓練と権限機能の強化である。

  • ―カナダNewfoundland島St. Anthony地域の事例―
    東村 玲子
    2006 年 46 巻 2 号 p. 201-218
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    1990年代初めのカナダ大西洋岸漁業におけるタラ資源崩壊は,St. Anthony地域の漁業者,そして地域そのものによる対応を余儀なくした。この過程で従来は地域の産業として先祖代々営まれて来た漁業がリスキーなものであり,また資源の状況によって地域自体の存続が危うくなる可能性があることが顕在化した。本論文では,こうしたタラ崩壊後の漁業者とその地域による対応の過程を見ることによって,辺境地の漁業が変化に適応する過程と条件を考察する。

    タラ崩壊後10年以上が経過し,St. Anthonyでは,それはもはや過去の出来事となりつつある。漁業者の数は1998年以降は増加傾向にあるが,漁船数(大部分は沿岸小型漁船)と経営体数は減少している。漁業収入は増加しており,これは主力漁業がタラから単価の高いカニヘと置き換わったためである。一方で,人口流出と高齢化が深刻化している。

    将来を考えると,現在漁業者がその収入の3~4割程度を依存している雇用保険は,条件不利地域への補助金という意味合いで存続せざるを得ない。その上で,漁業者の所得を上げることが必要である。具体的には,漁業者自ら漁獲物を加工できる様にする(制度上の問題もある),地元の加工会社の加工品目を増やす,漁業者の加工業者への資金的な依存関係をなくす,漁業の多様化,そして地域の産業の多様化が挙げられる。

  • 川辺 みどり
    2006 年 46 巻 2 号 p. 219-240
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
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    1980年代前半カキ斃死をきっかけに,生産環境への危機感を持った厚岸の青年漁業者たちが得た「木を植えて昔の環境に戻そう」という構想は,1990年代に分収林条例制定という町の支援を受けて具体化した。緑水会活動の特徴は,(1)カキ斃死を機に青年漁業者らがみずから調査をおこない沿岸域環境の劣化を認識し,植樹を構想したこと,(2)当初から町が分収林条例制定・契約によって緑水会を森林施策のパートナーと位置づけて活動を支援したこと,(3)植樹活動が首都園の団体D社の支持を得て,生産物流通をも含む協働へと展開したことにある。内発的動機と制度的支援が植樹活動が始まり継続しえた要因であり,生産物流通を含む外部団体との協働は活動の継続を励ましている。

    一方,行政の調査研究機関が厚岸湖及びその周辺環境で科学的調査研究をおこなっているにもかかわらず,科学的知見を活用しながら効率性・有効性を改善できるしくみがないことが,緑水会活動の弱点である。これは関係者間の連携が不十分なことに起因する。漁民の植樹活動を沿岸域環境保全へと結びつけるためには,町とのパートナーシップの確立に加え,公的機関・地域共同体・事業者などあらゆる関係者の参加を促し連携を進めることがもっとも必要である。

  • ―MPA・サンゴ礁保全・エコツーリズム―
    鹿熊 信一郎
    2006 年 46 巻 2 号 p. 241-260
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
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    サンゴ礁生態系はサンゴ礁漁業を支える基盤である。しかし,今後,サンゴ礁生態系・生物多様性の保全とサンゴ礁漁業の振興との間に対立が生じる恐れがある。本稿は,フィジー・沖縄の事例を基に,仮に二つの考え方を「西洋式」・「アジア・太平洋式」と呼び,両者が対立するケースをMPA,サンゴ礁保全,エコツーリズムの課題をとおして考察した。MPAの面積を決める際には,できるだけ大きくしようとする西洋式考え方と,操業区域を確保しようとするアジア・太平洋式考え方のバランスをとるため,科学的調査によりスピルオーバー効果を定量的に把握すると同時に,参加型・順応型管理方式によりMPAの面積を決定・改善していくべきだと考えられる。サンゴ礁生態系再生の方向は,基本的には西洋式考え方に基づく「保全」が第一であり,人為的な攪乱要因をできるだけ取り除かなければならない。しかし,サンゴ礁資源を漁業で利用しながら,人為的なサンゴ礁修復策もとり,サンゴ礁と人類が共存していけるサンゴ礁保全策も探していかなければならない。フィジーにおいては,環境収容力内,かつ,漁労文化・魚食文化への悪影響を最小限にとどめたアジア・太平洋独自の発想に基づくエコツーリズムの進展が期待される。

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