2013 年 16 巻 2 号 p. 120-125
症例は41歳の女性で,38歳時に躁うつ病と診断された。今回,包丁で腹部を刺したところを発見され救急搬送となった。搬送時の意識は清明で,血圧は106/77mmHg,心拍数は88回/分であった。包丁は抜去されておらず,救急隊により動かないように固定されていた。精査にて,包丁は肝実質と下大静脈を貫き,先端は胸椎内に達していたため,緊急開腹術を施行した。開腹所見から,包丁抜去に伴う下大静脈損傷部からの出血をコントロールできないと考え,大腿動脈より送血し右心房と大腿静脈から脱血する自己心拍動下の体外循環を導入後に,包丁を抜去し下大静脈修復術を施行した。術中経過は良好で,術後60日目に退院した。肝臓後方の下大静脈損傷の死亡率は約70%と不良であるが,本症例では包丁の可動性がなく下大静脈の損傷部が広がらなかったこと,体外循環下の手術により下大静脈からの出血を最小限に抑えたことが救命の要因と考えられた。