日本栄養・食糧学会誌
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総説
認知機能を改善する乳由来βラクトリンの発見と事業応用
(令和5年度日本栄養・食糧学会技術賞受賞)
阿野 泰久福田 隆文金留 理奈
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2023 年 76 巻 6 号 p. 377-382

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抄録

超高齢社会において, 加齢に伴い生じる脳の機能低下は大きな社会課題となり, 日常生活での予防・健康づくりに注目が集まっている。近年, 牛乳や乳製品摂取が認知症発症リスクを低減するという日本人対象の疫学報告がなされ, 発酵・熟成の進んだカマンベールチーズによるアルツハイマー病予防効果が非臨床試験で確認された。発酵乳製品に含まれる認知機能改善成分として, Trp-Tyr配列を有したβラクトペプチドとその主要成分であるβラクトリン (Gly-Thr-Trp-Tyr) が新たに有効成分として見出された。βラクトリンは摂取後, 脳へ届き, 前頭皮質や海馬のドーパミン神経を活性化することで認知機能を改善する。また, 健常中高齢者を対象としたランダム化比較試験で記憶想起機能や選択的注意機能といった認知機能を改善することが示されている。さらに, βラクトリンはワーキングメモリー課題中の背外側前頭前野の脳血流を増大することがfNIRSを用いたランダム化比較試験で確認されている。前頭前野の脳血流は加齢に伴い低下することが知られており, 脳血流を改善するβラクトリンの継続摂取によって, 脳神経細胞が活性化し, 加齢に伴い低下する認知機能の改善が示唆される。現在, βラクトリンは機能性表示食品として飲料, 乳製品, サプリメント等で提供されている。認知機能の維持には, 食事だけではなく, 運動や認知トレーニングなど多因子による行動変容継続が重要となる。今後, 毎日続けることが可能な脳の健康習慣醸成によって, 超高齢社会における社会課題の解決に寄与することが期待される。

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