大腸管腔内には細菌を中心とした生物群集が形成され, 管腔内の栄養成分やエネルギー成分のバランスをもとに生態系が構築され, これを大腸内エコシステムと称する。このエコシステムの破綻は消化管や全身性の疾患を引き起こしうるため, 大腸内エコシステムを健全に維持することはヒトの健康に寄与すると考えられる。食物繊維のようなエネルギー源のほか, ミネラルやビタミンのような微量成分も腸内細菌に必要である。小腸からの吸収率が低いミネラルは大腸に十分量送達され, ビタミンの多くも腸内細菌により生合成され大腸に供給される。しかし, ヒトのビタミンB12 (VB12) 摂取量は少なく, この生合成能をもつ腸内細菌種も限られるため, 大腸内はVB12制限環境になりうる。つまり, 大腸内は腸内細菌間でVB12獲得競争が繰り広げられる場であり, それに敗れた細菌種は消失しうる。また, 腸内細菌によるプロピオン酸生成にVB12は必要であるため, VB12制限は腸内細菌の代謝変動も招きうる。本稿ではVB12をめぐる大腸内エコシステム変化について大腸発酵の観点を中心に紹介する。