日本栄養・食糧学会誌
Online ISSN : 1883-2849
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ISSN-L : 0287-3516
77 巻, 4 号
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総説
  • 松井 伸祐, 岩槻 健
    2024 年77 巻4 号 p. 231-237
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/26
    ジャーナル フリー

    生物は, 外界の状況を察知し, より安全な環境で暮らし効率よくエネルギーを摂取できるよう進化してきた。特に栄養素受容に必須の消化管は劇的に変化を遂げ, 栄養価の高いものを認識し, 効率のいいエネルギー変換を可能にしてきた。一方で, 消化管は外来物と接する最前線にも位置しているため, 危険物を認識し忌避あるいは排除する機能を保持している。これらの機能を支えているのが, 内分泌細胞やTuft細胞など化学受容メカニズムを有する細胞たちである。消化管上皮に存在するこれらの細胞は, 体の内側に位置するため機能解析には困難が伴っていた。しかし, 最近の遺伝子組換え技術と薬理学実験を組み合わせた動物実験や, 新しい消化管培養法を用いることで, 当該分野の研究は躍進し新たな局面を迎えている。本総説では, 消化管の多彩な機能のうち, 化学受容システムについて最近の知見を紹介する。

  • 西村 直道
    2024 年77 巻4 号 p. 239-246
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/26
    ジャーナル フリー

    大腸管腔内には細菌を中心とした生物群集が形成され, 管腔内の栄養成分やエネルギー成分のバランスをもとに生態系が構築され, これを大腸内エコシステムと称する。このエコシステムの破綻は消化管や全身性の疾患を引き起こしうるため, 大腸内エコシステムを健全に維持することはヒトの健康に寄与すると考えられる。食物繊維のようなエネルギー源のほか, ミネラルやビタミンのような微量成分も腸内細菌に必要である。小腸からの吸収率が低いミネラルは大腸に十分量送達され, ビタミンの多くも腸内細菌により生合成され大腸に供給される。しかし, ヒトのビタミンB12 (VB12) 摂取量は少なく, この生合成能をもつ腸内細菌種も限られるため, 大腸内はVB12制限環境になりうる。つまり, 大腸内は腸内細菌間でVB12獲得競争が繰り広げられる場であり, それに敗れた細菌種は消失しうる。また, 腸内細菌によるプロピオン酸生成にVB12は必要であるため, VB12制限は腸内細菌の代謝変動も招きうる。本稿ではVB12をめぐる大腸内エコシステム変化について大腸発酵の観点を中心に紹介する。

  • ―腸管リン酸輸送の理解―
    小宮 蒼, 東 彩生, 小池 萌, 塩𥔎 雄治, 瀬川 博子
    2024 年77 巻4 号 p. 247-253
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/26
    ジャーナル フリー

    リン代謝調節の破綻は成長遅延のみならず, 腎臓病, 骨代謝異常をはじめとする慢性疾患発症に関与し, 多臓器の老化進行にも関与する。腎機能が正常な場合, リン代謝調節の主要な臓器は腎臓である。腎臓は, 食事または血中リン濃度の増加に応じて尿中リン排泄量を増加させることにより, リンの恒常性とバランスを効率的に維持している。慢性腎臓病における高リン血症は, 患者の症状におけるリスクファクターの一つとなることから, リン管理が重要である。高リン血症治療は, 食事指導によるリン摂取制限, 透析によるリン除去, 服薬による消化管でのリン酸吸収の抑制などがある。腸管におけるリン酸吸収は, 傍細胞経路を介する受動輸送とナトリウム (Na+) 依存性リン酸トランスポーターを介する経細胞経路が想定されている。通常, 傍細胞リン酸吸経路が中心的な経路であり, 経細胞リン酸吸収経路は, 成長期やリン欠乏時など体内でのリン要求が高い状態でその役割が果たされる。腸管リン酸吸収経路とその制御を理解することは, 高リン血症をより効果的に制御することにつながる。

  • 西浦 珠央, 増山 律子
    2024 年77 巻4 号 p. 255-260
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/26
    ジャーナル フリー

    小腸でのカルシウム吸収は生体の要求に応じてビタミンD等の内分泌的な作用により強力に促進される。この仕組みは, 腸管腔からのカルシウムイオンが流入する際に機能するカルシウムチャネル, 上皮細胞内でカルシウムイオンを捕捉する結合タンパク質, 基底膜側から血中に輸送するポンプ等の発現量や機能がビタミンD作用により調節されることから, ビタミンD依存的能動輸送としての詳細なメカニズムが明らかにされた。一方, ビタミンD作用以外のカルシウム輸送経路も多く存在することが, ビタミンD作用を欠く動物モデルを用いた研究により示されている。その一つとして, 食事から摂取するリン量に応じて消化管内のATP代謝が変化し, それによってカルシウム吸収が調節される新たな経路が見出された。細胞外のリン量が減少すると, 腸上皮細胞膜上ではATPの分解が抑制される。細胞外に増加したATPはP2X受容体を介して上皮細胞へのカルシウムイオン流入を増加し, 経細胞的なカルシウム吸収が完了する。この仕組みはビタミンD作用とは関係なく駆動し, 食事リン量に応じて変化する腸管腔内のリン量に応答したカルシウム吸収調節機構である。

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