小腸でのカルシウム吸収は生体の要求に応じてビタミンD等の内分泌的な作用により強力に促進される。この仕組みは, 腸管腔からのカルシウムイオンが流入する際に機能するカルシウムチャネル, 上皮細胞内でカルシウムイオンを捕捉する結合タンパク質, 基底膜側から血中に輸送するポンプ等の発現量や機能がビタミンD作用により調節されることから, ビタミンD依存的能動輸送としての詳細なメカニズムが明らかにされた。一方, ビタミンD作用以外のカルシウム輸送経路も多く存在することが, ビタミンD作用を欠く動物モデルを用いた研究により示されている。その一つとして, 食事から摂取するリン量に応じて消化管内のATP代謝が変化し, それによってカルシウム吸収が調節される新たな経路が見出された。細胞外のリン量が減少すると, 腸上皮細胞膜上ではATPの分解が抑制される。細胞外に増加したATPはP2X受容体を介して上皮細胞へのカルシウムイオン流入を増加し, 経細胞的なカルシウム吸収が完了する。この仕組みはビタミンD作用とは関係なく駆動し, 食事リン量に応じて変化する腸管腔内のリン量に応答したカルシウム吸収調節機構である。