抄録
認知心理学的な観点からの批判的思考においては、認知バイアスやヒューリスティクスといった合理的規準から逸脱した思考や、これらをモニター・制御するメタ認知過程が重視される。この観点から考えると、強いストレスにさらされる非常時には、認知リソースが制約され、批判的思考のような負荷の高い意識的な処理は抑制され、人が持つバイアスのかかった認知傾向が顕著に現れることになる。その結果として、合理的な情報評価や適切な行動が妨げられる可能性が高くなる。ただし、こうした認知バイアスにもとづく思い違いは、単に排除すべき「誤り」としてとらえるべきではなく、環境への適応的機能の現れとして、統合的に理解することが必要である。