2018 年 27 巻 4 号 p. 263-266
鈍的外傷による血管損傷はまれであり,なかでも総腸骨動脈に断裂を認めることはほとんどない.症例は58歳男性,作業中に右下腹部を強打し,強い右下腹部痛のため救急搬送された.来院時ショックバイタル,右下肢冷感を認め,右大腿動脈は触知しなかった.造影CT検査で,右総腸骨動脈損傷を認めた.循環動態安定のためハイブリッド手術室で左大腿動脈より大動脈閉塞バルーンを挿入,開腹した.術中所見で右総腸骨動脈は断裂し,断裂部に高度石灰化を認めた.またS状結腸およびS状結腸間膜損傷を認めた.総腸骨動脈は中枢,末梢を縫合閉鎖し,FFバイパス術を行い,S状結腸切除術を施行した.術後は右下肢の虚血再灌流による横紋筋融解症を生じ,一時的に血液浄化療法を導入したが,術後66日目に独歩で退院した.総腸骨動脈断裂による重篤な出血性ショック状態に大動脈閉塞バルーンを用いることで救命,救肢しえた.