2018 年 27 巻 6 号 p. 473-476
症例は25歳男性.工場で作業中に鉄パイプで両下肢を挟まれて受傷した.搬送時,左膝関節周囲の腫脹を認め,左足背動脈は触知困難,かつドップラー血流計で聴取困難であったが,左後脛骨動脈は微弱に聴取可能であった.左下腿の疼痛,冷感,感覚障害などの虚血症状はなかった.X線検査では左膝関節脱臼を認めた.脱臼整復後の造影CT検査では,膝窩部約2.5 cmの左膝窩動脈の閉塞を認めたが,左下腿動脈3枝は側副血行路により微弱な造影効果を認めた.来院5時間後より虚血症状出現したため緊急手術の方針とした.左大伏在静脈をグラフトとした膝上–膝下膝窩動脈バイパス術を施行した.虚血症状出現から血行再建までの時間は約8時間であった.術後,左足背動脈触知良好で虚血症状も消失した.外傷性膝窩動脈損傷は稀な病態であり,救肢には迅速かつ適切な診断,治療が要求される.初期症状が顕著でない場合でも,慎重な経時的評価が重要である.