抄録
高齢化した伴侶動物の神経疾患に関するメカニズムの研究, 予防や治療の開発は動物福祉の立場からもきわあて重要な課題である. 本実験は老年にさしかかる中年期から初老期 (19ヵ月齢) ラット大脳皮質において, 物理的環境と社会的環境がどのような影響を与えるかを皮膚質表面脳波 (ECoG) を解析することにより検討した. ラット(Wistar, 雄)は7ヵ月齢より標準型ケージに2匹ずつ (標準環境, N=5), 標準ケージの約半分サイズケージに1匹ずつ (貧環境, N=5) および標準ケージの約4倍サイズケージに6匹ずつ (豊環境, N=5)を入れ, 12ヵ月間飼育した. ただし, 豊環境については40種類ある遊具の中から数種を選び, それらを毎日交換した. さらに, 8週齢の若いラット (標準環境下で飼育, N=5) と比較した. ECoGの測定は小脳上部頭蓋骨に固定した基準電極と左右前頭部, 側頭部及び後頭部間の単極導出により記録し, 環境間での周波数分布, トータルパワー及び平均周波数を比較した. 貧環境ラットは他環境ラットと比べ, 後頭領域のα波帯域 (8.1-10.0Hz) のパワーが増え, さらにトータルパワー含有率でも有意な増加が認められた. この様に居住環境の影響は貧環境ラットにおいてもっとも顕著に現れた. ECoC変化の主因は空間容積などの物理的環境要因よりも社会的環境要因の方が強い影響を与えていることが示唆された.