本研究の目的は,大学入試国語科の記述問題において測られている表現力の性質を,語に対する言語操作という観点から明らかにすることである.日本の生徒は記述式の解答を苦手とするという認識から,学習指導要領では論理的に表現する力の育成が重視されてきた.しかし,論理的に表現する力があると評価される際に,何ができることが求められてきたのかは,これまで十分に明らかにされていない.本研究では,記述問題の模範解答内の語がどのような操作を通じて使用されているかを分析し,そこで求められてきた言語操作の種類が何であるかを観察した.その結果,題材文から該当箇所を節・文単位で書き抜く,句・節・文単位で言い換える,題材文の関連文脈から語を書き抜く,必要な語を補足するという4つが主要な操作であることが分かった.一方,題材文の内容ではなく,題材文の言語表現を参照するための語の使用は少ない割合に留まっていた.