日本食品科学工学会誌
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技術用語解説
ラクトフェリン
山内 恒治
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2006 年 53 巻 3 号 p. 193

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抄録

ラクトフェリン(LF)は,トランスフェリンと類似の構造をもつ分子量約80,000の鉄結合性の糖たんぱく質である.1939年にSørensenらによって牛乳の乳清画分から赤色たんぱく質として発見され,1960年に母乳と牛乳から単離された.LFは特に初乳での濃度が高く,たんぱく質中の数十%の割合を占め(図1),乳児(仔)の感染防御に重要な役割を果たしていると考えられている.また,涙や唾液などの外分泌液や白血球の一種である好中球にも存在する.
LFの生理機能として,1)抗菌・抗ウイルス活性,2)ビフィズス菌増殖促進作用,3)免疫調節作用,4)抗酸化作用,5)鉄吸収調節作用などの多様な作用が知られている.抗生物質の場合,全ての細菌に抗菌作用を示し腸内ではその菌叢全体を死滅させるのに対して,LFは有害菌である大腸菌を抑制する一方,有用菌であるビフィズス菌に対しては増殖効果を示す.
LFは胃の消化酵素であるペプシンによる加水分解を受け,より強い抗菌活性をもつペプチド“ラクトフェリシン®”が生成される.このペプチドは細菌や真菌など多くの病原菌に対して殺菌的な抗菌活性を示す.また,抗菌活性以外にも免疫調節作用など種々の生理活性を示し,LFの多様な機能の一端を担うペプチドと考えられている.
近年の研究において,LF経口投与による種々の細菌,真菌に対する感染防御機能が明らかとなりつつある.その作用機序として,経口投与されたLFが腸管免疫系に作用し,免疫ネットワークを介して全身免疫系機能が亢進され,生体防御能が高まるものと考えられる.また,大腸はじめ,膀胱,食道,肺,肝臓についてモデル動物における発がん抑制効果が報告されている.ヒトにおいては,乳児におけるビフィズス菌叢の形成促進のほか,足白癬における皮膚症状の改善効果や,C型慢性肝炎における抗ウイルス作用の効果など,LF経口摂取による臨床試験成績が報告されている.
LFは未加熱の牛乳には約20mg/100ml,ナチュラルチーズには約300mg/100g含まれており,長い食経験がある.ラットを用いた亜急性毒性試験において毒性は認められず,Ames試験,染色体異常試験,小核試験の遺伝毒性試験でも異常は認められていない.また,これまでの臨床試験においても特に副作用は認められず,ウシLFの食品としての安全性は極めて高いものと考えられる.
LFの応用に当たっては,牛乳やチーズホエイを原料として,工業的規模で陽イオン交換カラムを用いた分離精製および膜処理技術を用いた脱塩・濃縮による高純度での生産が確立された.分離精製されたウシLF粉末は淡赤桃色の色調で無味無臭,水に対する溶解性は高く,溶解度は40%である.LFの水溶液は酸性条件では安定でpH4では90℃~100℃5分の処理でも変性しない事が見出された.本特性を利用することにより,活性を保持したLFを含有した食品の製造が可能となった.現在,LFは育児用ミルク,ヨーグルト,乳酸菌飲料,サプリメントなどに広く応用されている.
機能性を持った食品よって生活の質の向上や疾病リスクの低減を図る動きは日本だけでなく欧米でも高まっており,今後の更なるエビデンスの蓄積に基づくLFの機能性食品への応用が強く期待される.

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© 2006 日本食品科学工学会
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