日本食品科学工学会誌
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53 巻, 3 号
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総説
報文
  • 三星 沙織, 小櫃 理恵, 川畑 奈緒, 木村 真希子, 齋藤 実希, 田中 直義, 渡辺 杉夫, 村松 芳多子, 木内 幹
    2006 年 53 巻 3 号 p. 165-171
    発行日: 2006/03/15
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    納豆菌の栄養細胞から胞子のみを分離し,胞子懸濁液を製造することは新規納豆菌の実用化のために必須の条件である.Mn2+添加,冷蔵・乾燥処理の環境ストレスをかけることによって市販納豆菌から分離したB. subtilis(natto)KFP 2のスターター化条件を調べた.
    1.市販納豆菌を納豆工場16箇所から集め,胞子割合を測定した結果,値の低い2点を除くと平均94.0%であった.
    2.0.1mmol/lMn2+をNBP平板培地に添加することによってB. subtilis(natto) KFP 2(スターターBより分離)の胞子形成が促進されることを見いだした.最適Mn2+濃度は0.1mmol/lであった.
    3.KFP 2のスターター化を検討した結果,Mn2+添加培地で培養後菌液を冷蔵,完全に乾燥することによって収率97.3%で胞子を得ることができた.
    4.同様の方法で,市販納豆菌から分離したKFP 1, KFP 4と研究室保存の納豆菌KFP 419, KFP 827, KFP 828についてもスターター化した結果,KFP 4以外の菌では胞子割合90%以上を達成した.KFP 4では,71.4%と胞子割合が低かった.
    5.調製したKFP 2(スターターBより単離)の胞子懸濁液で小規模の納豆製造を行って官能検査を行った結果,糸引きはスターターBで製造した納豆よりもよく,菌の被り,香りでは同等と評価された.硬さ,うま味においてはやや劣るという評価であった.
技術論文
  • 小野 和広, 遠藤 浩志, 稲津 康弘, 宮尾 茂雄
    2006 年 53 巻 3 号 p. 172-178
    発行日: 2006/03/15
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    浅漬の製造および保存中の微生物を制御することを目的に,白菜を試料とした場合の部位別微生物数を明らかにするとともに,SHS処理が付着微生物の殺菌に有効かどうかを検討した.
    (1)白菜には5logCFU/g以上の一般細菌が常在し,中葉部よりは外葉部に,元よりは先に多く分布していた.また,そのほとんどは表皮に付着し,組織内部からは認められなかった.
    (2)110~130℃,10秒のSHS処理により,白菜に付着するグラム陽性菌,グラム陰性菌および硝酸還元菌を2.5logCFU/g以下まで低減できた.
    (3)白菜への130℃・10秒のSHS処理により,付着細菌を4.4logCFU/g低減でき,乾熱処理や従来の洗浄殺菌剤処理(1.3~2.2logCFU/g)に比べ高い殺菌作用が認められた.
    (4)白菜に付着させたEscherichia coli O157 : H7およびStapylococcus aureusは,NaClO処理では約1logCFU/gの減少にとどまったが,SHS処理では2logCFU/g以上低減した.
    (5)SHS処理は白菜の物性や色調に大きな影響を与えなかった.
    以上の結果から,白菜をSHSにより前処理することは,浅漬の製造における微生物制御に有効であることが示唆された.
  • 熊谷 武久, 瀬野 公子, 渡辺 紀之
    2006 年 53 巻 3 号 p. 179-184
    発行日: 2006/03/15
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    乳酸菌添加液に玄米を浸漬することによる乳酸菌の付着性を検討した.
    (1)米及び米加工品より分離したL. casei subsp. casei 327を乳酸菌スターターとして,コシヒカリ,ミルキークイーン及びこしいぶきの玄米を用い,玄米浸漬液にスターターを添加して37℃,17時間発酵することにより,乳酸菌の増殖が浸漬液及び玄米で見られた.16SrRNA遺伝子塩基配列により当該菌が増殖したことを確認した.
    (2)発酵処理した玄米のpHはおおよそ6であり,炊飯後の米飯の食味に影響を及ぼさなかった.
    (3)発酵温度の低下により発酵処理玄米のLactobacillus数が低下し,玄米と浸漬液の配合比及びスターター量の変化では,大きな影響はなかった.
    (4)乳酸菌を添加しない区では,乳酸菌以外の菌数が増加し,Enterobacteriaceaeが主要な菌であった.
    (5)5菌種,7菌株の乳酸菌,全てで発酵液及び発酵処理玄米のLactobacillus数の増加が見られ,L. acidophilus JCM1132Tのみ生育が悪く,L. casei subsp. casei 327が最も増殖効果が高かった.
研究ノート
  • 嶋影 逸, 新保 守, 山田 清繁, 伊藤 汎
    2006 年 53 巻 3 号 p. 185-188
    発行日: 2006/03/15
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    イソフラボン含有量の多い納豆を製造するために,納豆製造工程におけるイソフラボンの消長を調べた結果,挽割納豆では大豆の破砕により生成した大豆粉末にイソフラボンが9.8%移行するが,粒納豆では洗浄・浸漬・蒸煮などの工程からはイソフラボンが漏出することは殆どないことが判った.一方納豆の製造工程において起こる大豆イソフラボンの組成と量の変化は,主に浸漬大豆の蒸煮によるマロニル配糖体からイソフラボン配糖体への分解及び煮豆の発酵によるイソフラボン配糖体からのサクシニル配糖体の生成によるものであることが示唆された.
  • 伊部 さちえ, 吉田 恵子, 熊田 薫
    2006 年 53 巻 3 号 p. 189-192
    発行日: 2006/03/15
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    1)生大豆,浸漬大豆,蒸煮大豆,煮汁,発酵時間を変えて製造した納豆におけるACE阻害活性を調べた.大豆1gあたりのACE阻害活性(総活性)は浸漬大豆がもっとも高く,生大豆の約1.6倍であった.しかし蒸煮により,その活性は浸漬大豆の約50%,生大豆の約80%に低下した.納豆は蒸煮大豆よりも阻害活性が高く,本研究の実験条件下では発酵16~20時間(製品として適する発酵時間)において最も高い活性を示し,さらに発酵を続けると活性は低下した.
    2)市販納豆菌株および著者らが自然界から分離した納豆菌株を用いて納豆を製造し,納豆菌株によるACE阻害活性の相違について調べた.使用する納豆菌株により納豆のACE阻害活性に相違が認められた.市販株よりも高い阻害活性を持つ納豆を製造する納豆菌株が数株存在した.
    3)納豆のACE阻害物質は,蒸煮大豆に本来存在した物質,および発酵により蒸煮大豆中の前駆物質から新たに生成された物質から成ることが示唆された.
技術用語解説
  • 山内 恒治
    2006 年 53 巻 3 号 p. 193
    発行日: 2006/03/15
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    ラクトフェリン(LF)は,トランスフェリンと類似の構造をもつ分子量約80,000の鉄結合性の糖たんぱく質である.1939年にSørensenらによって牛乳の乳清画分から赤色たんぱく質として発見され,1960年に母乳と牛乳から単離された.LFは特に初乳での濃度が高く,たんぱく質中の数十%の割合を占め(図1),乳児(仔)の感染防御に重要な役割を果たしていると考えられている.また,涙や唾液などの外分泌液や白血球の一種である好中球にも存在する.
    LFの生理機能として,1)抗菌・抗ウイルス活性,2)ビフィズス菌増殖促進作用,3)免疫調節作用,4)抗酸化作用,5)鉄吸収調節作用などの多様な作用が知られている.抗生物質の場合,全ての細菌に抗菌作用を示し腸内ではその菌叢全体を死滅させるのに対して,LFは有害菌である大腸菌を抑制する一方,有用菌であるビフィズス菌に対しては増殖効果を示す.
    LFは胃の消化酵素であるペプシンによる加水分解を受け,より強い抗菌活性をもつペプチド“ラクトフェリシン®”が生成される.このペプチドは細菌や真菌など多くの病原菌に対して殺菌的な抗菌活性を示す.また,抗菌活性以外にも免疫調節作用など種々の生理活性を示し,LFの多様な機能の一端を担うペプチドと考えられている.
    近年の研究において,LF経口投与による種々の細菌,真菌に対する感染防御機能が明らかとなりつつある.その作用機序として,経口投与されたLFが腸管免疫系に作用し,免疫ネットワークを介して全身免疫系機能が亢進され,生体防御能が高まるものと考えられる.また,大腸はじめ,膀胱,食道,肺,肝臓についてモデル動物における発がん抑制効果が報告されている.ヒトにおいては,乳児におけるビフィズス菌叢の形成促進のほか,足白癬における皮膚症状の改善効果や,C型慢性肝炎における抗ウイルス作用の効果など,LF経口摂取による臨床試験成績が報告されている.
    LFは未加熱の牛乳には約20mg/100ml,ナチュラルチーズには約300mg/100g含まれており,長い食経験がある.ラットを用いた亜急性毒性試験において毒性は認められず,Ames試験,染色体異常試験,小核試験の遺伝毒性試験でも異常は認められていない.また,これまでの臨床試験においても特に副作用は認められず,ウシLFの食品としての安全性は極めて高いものと考えられる.
    LFの応用に当たっては,牛乳やチーズホエイを原料として,工業的規模で陽イオン交換カラムを用いた分離精製および膜処理技術を用いた脱塩・濃縮による高純度での生産が確立された.分離精製されたウシLF粉末は淡赤桃色の色調で無味無臭,水に対する溶解性は高く,溶解度は40%である.LFの水溶液は酸性条件では安定でpH4では90℃~100℃5分の処理でも変性しない事が見出された.本特性を利用することにより,活性を保持したLFを含有した食品の製造が可能となった.現在,LFは育児用ミルク,ヨーグルト,乳酸菌飲料,サプリメントなどに広く応用されている.
    機能性を持った食品よって生活の質の向上や疾病リスクの低減を図る動きは日本だけでなく欧米でも高まっており,今後の更なるエビデンスの蓄積に基づくLFの機能性食品への応用が強く期待される.
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