貯蔵中食物における害虫発生の早期検出を可能にするため,揮発性のマーカー成分の利用を検討している.玄米の害虫加害マーカー候補のうち,ガイマイツヅリガとノシメマダラメイガの指標となるプレノールとイソプレノール,コクゾウムシの指標となるDMTSについて,リアルタイム質量分析計による迅速診断の可能性を検討した.
プレノールとイソプレノールの検出にはNO+ によるイオン化によるm/z 86,DMTSにはNO+ イオン化によるm/z 126を選択し,SIMモードにより測定した.プレノールとイソプレノールは構造異性体のためプロダクトイオンでは識別できないが,プレノールはそのアルデヒドであるプレナールと濃度が同期することから,プレノール類とプレナール(NO+, m/z 83)を同時計測することでプレノールとイソプレノールの識別が可能となる.ガイマイツヅリガではプレノールがノシメマダラメイガではイソプレノールが生成したと考えられ,ガイマイツヅリガは実験開始から6日目以降に,ノシメマダラメイガでは31日目以降に卵添加なしと比べて有意な増加が認められた.DMTSでは期間を通じて低濃度で推移し,日間差と処理間差が同程度のためSIMによる診断は困難と考えられた.
マーカー成分を特定しないFSモードの全データを用いた主成分分析を1,29,36日目に行った.NO+ によるイオン化により処理区の差異が最も明瞭で,コクゾウムシについても29日目以降に識別可能であった.今後,スケールを拡大しながら実用化に向けた詳細な検討が必要である.