日本食品科学工学会誌
Online ISSN : 1881-6681
Print ISSN : 1341-027X
ISSN-L : 1341-027X
技術論文
揮発性成分による玄米中貯穀害虫の検出:リアルタイム質量分析法を用いた迅速分析
田中 福代四方 政樹猪井 淑雄松尾 徹也宮ノ下 明大
著者情報
ジャーナル フリー

2021 年 68 巻 7 号 p. 319-327

詳細
抄録

貯蔵中食物における害虫発生の早期検出を可能にするため,揮発性のマーカー成分の利用を検討している.玄米の害虫加害マーカー候補のうち,ガイマイツヅリガとノシメマダラメイガの指標となるプレノールとイソプレノール,コクゾウムシの指標となるDMTSについて,リアルタイム質量分析計による迅速診断の可能性を検討した.

プレノールとイソプレノールの検出にはNO によるイオン化によるm/z 86,DMTSにはNO イオン化によるm/z 126を選択し,SIMモードにより測定した.プレノールとイソプレノールは構造異性体のためプロダクトイオンでは識別できないが,プレノールはそのアルデヒドであるプレナールと濃度が同期することから,プレノール類とプレナール(NO, m/z 83)を同時計測することでプレノールとイソプレノールの識別が可能となる.ガイマイツヅリガではプレノールがノシメマダラメイガではイソプレノールが生成したと考えられ,ガイマイツヅリガは実験開始から6日目以降に,ノシメマダラメイガでは31日目以降に卵添加なしと比べて有意な増加が認められた.DMTSでは期間を通じて低濃度で推移し,日間差と処理間差が同程度のためSIMによる診断は困難と考えられた.

マーカー成分を特定しないFSモードの全データを用いた主成分分析を1,29,36日目に行った.NO によるイオン化により処理区の差異が最も明瞭で,コクゾウムシについても29日目以降に識別可能であった.今後,スケールを拡大しながら実用化に向けた詳細な検討が必要である.

著者関連情報
© 2021 日本食品科学工学会
前の記事 次の記事
feedback
Top