日本食品科学工学会誌
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大豆の粉砕・圧扁処理に伴うトリプシンインヒビター熱安定性の増大
盛永 宏太郎
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2002 年 49 巻 4 号 p. 245-249

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抄録

(1) 乾燥丸大豆を破砕後に焙煎して,TI活性の変化を調べたところ,無傷の大豆のTI活性は熱失活して1/20程度に低下したが,破砕して微細になった大豆ほどTIは熱安定性を増して熱失活しなくなった.粒径1mm以下に破砕した大豆のTI活性値は未加熱大豆のTI活性に近い高い値を示した.
また,乾燥大豆を圧扁してから焙煎してそのTI活性の変化を調べたところ,破砕の場合と同様に,薄く圧扁した大豆のTIほど熱失活せずTI活性は高い値になった.
これは破砕または圧扁処理により,大豆細胞が破壊されたためにTIが熱安定性を増したものと思われた.
(2) 生大豆および焙煎丸大豆,焙煎破砕大豆のタンパク質をトリプシンで消化したところ,三者共にトリプシン量が残存するTI単位量以下の少量であっても,そのトリプシン添加量に応じて消化率は徐々に向上し,TI単位量に達したときに消化率は約50%になった.その後もトリプシンの添加量に比例して消化率が向上した.添加トリプシン量がTI単位量の約2倍になったときに消化率はほぼ最大値に近くなった.
また,焙煎丸大豆のタンパク質はTI活性が低いので少量のトリプシン量で良く消化するのに対して,生大豆と焙煎破砕大豆はTI活性が高いために消化が悪く,多量のトリプシンを加えないと消化率は良くならなかった.
(3) 焙煎大豆のTI失活に及ぼす焙煎温度と時間の影響を調べたところ,120℃加熱では温度が低く,無傷の丸大豆でもTI失活は不充分であった.破砕大豆TIはまったく失活しなかった.150℃加熱の丸大豆は加熱10分後にTI活性値は1/10に減少し,20分後には1/20になった.150℃加熱の破砕大豆のTIは20分後でもわずかに10%減少しただけだった.180℃加熱の丸大豆は加熱5分でTI活性値が1/10に減少した.しかしこのときの大豆は黒変して焦げた状態になった.破砕大豆のTIは180℃加熱でもなお幾分活性を持続し20分後の値は生の約1/5を示した.

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