[背景]精神疾患の病態には、全⾝のエネルギー代謝異常、慢性低度炎症、酸化ストレス、栄養素の過不⾜が関与すると考えられる。漢⽅は古来これを「気・⾎・⽔」の乱れとして捉え、倦怠感・意欲低下・のぼせなどの不定愁訴を、操作的診断基準とは異なる軸で全⼈的に評価してきた。これらの病態は加点式の診断スコアにより半客観化されており、各症状を栄養医学・⽣化学の視点から読み解く余地がある。
[⽬的]本稿は、気虚・気滞(気鬱)・気逆・⾎虚・瘀⾎・⽔滞の六病態と、その診断スコアを構成する⾝体症状を栄養精神医学および⽣化学の知⾒と対応づけて筆者の作業仮説として提⽰し、多職種臨床への意義と限界を整理する。
[内容]筆者は六病態の主たる機序を次のように整理する。気虚はミトコンドリアのATP 産⽣効率の低下、気滞はメチレーション代謝の停滞を背景とする慢性炎症・キヌレニン経路シフトとモノアミン合成低下、気逆は交感神経の過緊張と⾎管運動の調節失調、⾎虚は鉄やタンパク質などの基質枯渇による組織機能の低下、瘀⾎は⾎管内⽪機能障害・酸化ストレス・慢性低度炎症を背景とする微⼩循環障害、⽔滞は低タンパク⾎症や膜輸送障害による体液分布の異常と考える。とくにメチレーション代謝の停滞を共通のハブとみなし、機能⾯の失調である気滞が⻑引いて循環⾯の瘀⾎へ移⾏し、利⽤障害性の⾎虚を併発する連関を⽰した。また六病態の診断スコア、評価項⽬、⾷材、併存パターンを表に整理した。
[結論]こうした対応づけは確⽴した診断基準ではなく今後の検証を要する作業仮説だが、多職種が⾝体所⾒を評価し代謝的弱点に基づく栄養医学的介⼊を検討するための共通⾔語を提供しうる。ただし中等症以上のうつ病や希死念慮を認める例では薬物療法・精神療法を最優先し、栄養医学的介⼊は標準的精神科医療を補完する位置づけにとどめる。栄養を理由に標準治療が遅れることがあってはならない。