2026 年 2 巻 1 号 p. 68-80
[背景]鉄⽋乏症は、⼦どもと有経⼥性で頻度が⾼い。精神科臨床では、不眠、疲労、不安、集中困難、落ち着きのなさなどが主訴となりうるが、⾮貧⾎性鉄⽋乏や、炎症によりフェリチン⾼値である機能的鉄⽋乏と絶対的鉄⽋乏との併存例(混合型鉄⽋乏)が⾒逃されやすい。 [⽬的]広義の鉄⽋乏の概念を定義し、貧⾎の有無に関わらず鉄⽋乏症と上記の症状との関係を批判的に整理し、精神科実臨床への導⼊可能性と限界を明らかにする。 [内容]①⾮貧⾎性鉄⽋乏と②⾮貧⾎性の鉄利⽤障害、③鉄⽋乏性貧⾎と④炎症性貧⾎を合わせて、「鉄⽋乏状態」の4 つの臨床的表現型を⽰し、広義の鉄⽋乏の概念と病態解説をまとめた。評価は、フェリチン、TSAT、TIBC、CRP、MCV などの鉄関連指標に加えて、症状、⽖や冷えなどの⾝体所⾒、性別や年齢、⾷⽣活、腸管の状態を含めて多⾯的に⾏う。その上で、鉄補充の適否を判断し、鉄代謝の改善を⽬指す⽣活指導を⾏うことが重要である。CRP が上昇しないような微細な炎症でもフェリチンは上昇しうるため、臨床ではこうした炎症に反応するTS AT、TIBC、Cu/Zn 等の数値も参考にする。観察研究では、⽉経のある若年⼥性や周産期⼥性を中⼼に、鉄⽋乏症と抑うつ症状、疲労、怒り・易刺激性、QOL 低下との関連が⽰唆される。介⼊研究とメタ解析では、貧⾎のない鉄⽋乏症の集団で疲労、⾝体的な主観的健康感、⼀部の不安・認知指標の改善が⽐較的⼀貫しているが、抑うつ症状に対する直接的な改善効果は限定的である。 [結論]精神科臨床では、説明しにくい不眠や疲労、落ち着かなさを伴う患者で鉄⽋乏を系統的に疑う意義がある。臨床では混合型鉄⽋乏の場合は、まずは炎症の原因を探り、可能な限り炎症の問題に対処してから、絶対的鉄⽋乏に対処するべきであり、安易な鉄剤の投与は慎むべきである。