抄録
立体規則性合成高分子鎖問のファンデルワールス相互作用を基にした立体的な構造適合により形成されるステレオコンプレックスを駆動力とした, 分子レベルで構造制御された高分子超薄膜の逐次調製についてまとめた。アイソタクチック (it) ならびにシンジオタクチック (st) ポリ (メチルメタクリレート) (PMMA) を適当な極性有機溶媒に溶解し混合すると, it-PMMAの周りをst-PMMAが取り囲んだ二重らせん構造を有するステレオコンプレックスが形成される。規則正しい二重らせんを形成する始めての合成高分子系として注目されるが, 従来の手法により得られる薄膜中では, 同一の分子鎖問で結晶化 (自己集合) し二重らせん構造の制御は難しい。筆者らは, 基板上で逐次的にポリイオンコンプレックスを形成させながら高分子超薄膜を調製する交互吸着法に注目し, 両PMMA溶液に基板を交互に浸すことで, 基板界面でステレオコンプレックスを逐次的に形成させながら, 分子レベルで会合構造が制御されたステレオコンプレックス超薄膜を調製できることを明らかにした。積層過程はナノグラムレベルの微量天秤として知られる水晶発振子 (QCM) を基板とすることで定量化し, その他の定性的評価によりコンプレックス形成を確認した。また, st-ポリマーは他のst-ポリメタクリレートであってもコンプレックスを形成することが知られており, it-PMMAとst-ポリメタクリル酸, it-PMMAとst-ポリ (エチルおよびプロピルメタクリレート) のそれぞれの組み合わせにおいても同様に超薄膜が逐次調製できることを明らかにした。一方, 鏡像異性体であるLおよびD-ポリ乳酸の熱アセトニトリル溶液を混合すると, それぞれ左および右巻きらせんがファンデルワールス接触することでラセミ結晶 (ステレオコンプレックス) を形成することが知られている。筆者らはこのラセミ結晶化を駆動力として同様に逐次積層できることを明らかにした。この系はPMMA系とは異なりらせん状の会合形態は持たないが, 単なるファンデルワールス接触が逐次積層に利用できるといった観点からも興味深い。以上のように, 逐次的な積層過程を利用することで従来困難であった, 分子レベルで構造制御された高分子超薄膜の調製が可能であることが明らかになった。