2016 年 16 巻 1 号 p. 7-19
イソプレンとは植物が強い光や高い温度に曝されたときに,光合成系から供給されるDMAPPを基質として,イソプレン合成酵素(ISPS)の作用により生成される炭素数5の揮発性有機化合物である。 イソプレンは光合成の場である葉緑体のチラコイド膜を安定化することにより,強光や高温による光合成反応の阻害を防止すると考えられている。その一方において反応性が高く,大気中においてメタン等の温暖化ガスの酸化分解にかかわる大気成分であるオゾンやヒドロキシラジカルと容易に反応してこれを消費し,間接的にメタン分解を抑制すると考えられている。従って,イソプレンの放出の制御は大気化学的側面ばかりでなく,温暖化ともからんで地球規模で重要な問題である。イソプレン放出は一義的には温度と光強度に依存しており,これまで特定の光や温度条件下におけるイソプレン放出量の推定には温帯樹木のデータを基にして構築された予測式が用いられてきた。しかしながら,筆者等は熱帯樹木の温度応答性が温帯植物とは異なる可能性を指摘してきている。このことは熱帯樹木のイソプレン合成と放出の調節機構が温帯樹木とは異なることも示唆している。本稿においては,断片的ではあるが著者等の研究室においてこれまで明らかにされてきた熱帯植物におけるイソプレン合成の調節機構とこれらの応用の可能性について紹介する。