2016 年 16 巻 12 号 p. 571-577
食品の安全性を確保するためのリスク分析は日本の規制システムの中で定着してきたように見える。現在,リスク分析には2つのやり方があり,1つは閾値ありアプローチであり,リスク分析以前からある安全と危険の二分法に回帰してしまっているように見える。もう1つは,閾値なしアプローチであるが,最近まで食品安全分野では利用されてこなかった。その理由は遺伝毒性があると分かった時点で厳しく使用禁止措置がとられてきたからである。しかし近年,遺伝毒性発がん性物質は,非意図的な汚染物質や副生成物の中に多数見つかっている。本論文では4つの物質のリスク評価書をとりあげ,リスク分析の中での扱われ方をレビューし,3つの新しいツールを取り上げる。最後に,エビデンスに基づく政策決定に資するために必要なアプローチを提案する。