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特集総説論文
脂質ナノ粒子を用いたsiRNAデリバリー技術の開発とがん治療への応用
浅井 知浩出羽 毅久奥 直人
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2016 年 16 巻 6 号 p. 271-278

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抄録

小分子RNA(small interfering RNA(siRNA)やmicroRNA(miRNA))を用いたRNA干渉療法は,疾患関連遺伝子の発現を選択的に抑制する治療法であり,がんなどの遺伝子発現異常に基づく疾患への応用が期待されている。しかし,RNAは生体内で分解され易く,細胞膜をほとんど透過しないため,医薬品化にはdrug delivery system(DDS)技術が必要である。核酸医薬開発においてDDS技術の重要性が一段と増す中,脂質ナノ粒子を用いたsiRNAデリバリーシステムは実用化に向けた研究がかなり進んでいる。本稿では,イントロダクションとしてRNA干渉療法の基礎とsiRNA医薬の特徴について記した後,脂質ナノ粒子を用いたsiRNAデリバリーシステムについて概説する。その後,我々が開発を進めている脂質ナノ粒子を用いたsiRNAデリバリーの研究成果を要約して紹介する。これまでに我々は,siRNAデリバリーのために複数のポリカチオン脂質誘導体を設計・合成し,様々な脂質ナノ粒子を調製した。そして,遺伝子のノックダウン効率を指標にしたスクリーニングを行い,脂質ナノ粒子の処方を決定した。さらに我々は,腫瘍へのターゲティングを目的として,ポリエチレングリコールで被覆した脂質ナノ粒子の表面をペプチドで修飾した全身投与型siRNAベクターを開発した。この全身投与型siRNAベクターを用いてがんの増殖に関与するmammalian target of rapamycin(mTOR)に対するsiRNAを担がんマウスに静脈内投与したところ,siRNAが選択的に腫瘍に集積し,有意ながん治療効果をもたらした。このことから,我々が開発した脂質ナノ粒子は,全身投与による腫瘍選択的siRNAデリバリーに応用可能であることが示唆された。

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