2018 年 18 巻 7 号 p. 325-331
超高齢社会において,運動機能を高め健康寿命の延伸を実現することは重要な課題である。中高年齢者の運動機能改善を目指し,加齢に伴う運動機能低下の特徴を探るため体力横断研究を行った結果,敏捷性を始めとする行動を調節する力の低下が顕著であることが示された。また我々は,運動ニューロンとそれが支配する筋線維群から成る運動単位の機能を改善し得る食品素材として乳に着目し,乳中の極性脂質であるスフィンゴミエリンが,神経筋接合部の構造・機能の改善を介して運動単位の活動性を高め,敏捷性などの運動機能改善に作用していることを見出した。更に,ヒトにおいては,食事性スフィンゴミエリンと適度な運動を併用することで,中高年齢者の敏捷性や転倒リスク,また虚弱状態が改善されることが臨床試験で明らかとなっている。以上より,栄養や適度な運動の介入による,神経筋接合部を中心とする運動単位に対するアプローチが,運動機能を高めるための有効な選択肢となることが示唆された。