2019 年 18 巻 7 号 p. 333-340
細胞膜に豊富に存在するスフィンゴ脂質に由来する脂質メディエータースフィンゴシン-1-リン酸(S1P)は,5種のS1P特異的Gタンパク質共役型受容体を活性化して,多彩なシグナル経路に共役する。標的細胞におけるしばしば複数のS1P受容体の発現とあいまって,S1Pによる複雑な細胞機能の制御を可能にしている。二つ目の特徴は,S1Pは血漿中に高濃度で存在し,血中と組織の間にS1Pの大きな濃度勾配が存在することである。S1Pシグナル系の主要な標的は,血管系と免疫系であることが明らかになってきた。血管系では,血管形成,障壁機能の維持,血管障害に対する防御などに関わる。免疫系においては,リンパ球の体内循環,活性化,分化やマクロファージ機能を調節することにより,免疫機能の生理的調節ならびに炎症応答に関与する。多発性硬化症に対する治療薬FTY720が開発されたのを皮切りに,さまざまな免疫,炎症性疾患を標的としたS1P創薬研究が活発に展開されている。