2020 年 20 巻 7 号 p. 329-336
本稿では,振動分光法と熱量測定法で観える高分子中の水の構造の違いについて概説する。高分子中の水は,示差走査熱量法(DSC法)による評価から,水の凍結融解挙動に基づき,自由水・中間水・不凍水に分類される。水を非溶媒とする高分子中の微量の水は,一般にDSC法により,不凍水のみで構成されていると考えられていた。しかしながら,温度可変赤外分光法(TV-IR法)による評価から,高分子中の水が,あらゆる状態変化(凝縮・凝固・凝華・昇華・融解・蒸発)を生じ得ることが明らかとなり,さらに,昇温過程における凝華過程(再凝華)を経た再結晶化が見出された。これまでは,中間水に分類される再結晶化水は,アモルファス氷の脱ガラス化により形成されると考えられていた。これらの結果は,これまでDSC法に基づき定義されていた水構造を再考する必要性を示している。