固液界面では水分子が固体表面と相互作用して,不均一な3次元密度分布,すなわち水和構造を形成する。このような水和現象は,様々な界面機能や界面現象の発現に深く関与しているが,そのメカニズムは十分に理解されていない場合が非常に多い。この問題を解決するための強力なツールとして,近年原子間力顕微鏡を用いた水和構造計測技術に注目が集まっている。この方法では従来観ることのできなかったサブナノスケールの3次元水和構造を直接観察することが可能であり,水和現象に関する理解を大いに発展させられるものと期待されている。本稿では,この技術の開発動向と応用研究事例を総説する。
多糖類を含む高分子物質の水溶液中での物理化学的特性の議論には,水和挙動に関する情報が不可欠である。古典的な音響的測定手法に加えて,水分子の緩和周波数を上回る超高周波数域に及ぶ誘電スペクトル測定法は,水溶液中の溶質分子の水和数を決定するのに有効な測定手法である。この誘電スペクトル測定法は,溶質分子に水和した水分子が水和位置にどの程度の時間留まるのか,つまり水和寿命,についての情報も併せて与えてくれるので,水溶液系における水和に関するより詳細な議論がここ数年間で飛躍的に発展している。
リン脂質や界面活性剤といった両親媒性の分子が水中で自己組織的に様々な凝集構造を形成する際に,水はどのような役割を持っているのであろうか。それとも水はただの溶媒であるだけなのか。これを明らかにするために,筆者らは両親媒性分子の水和状態の観測を行い,自己組織化構造形成との関係性を調べてきた。テラヘルツ分光法を用いて弱く束縛された水まで含めて水和状態を観測することで,水和層がこれまで考えられてきたよりも長距離に及ぶこと,さらにその長距離水和状態がミセル-ラメラ相転移といった構造相転移や二重膜同士の相互作用と密接に関係していることが分かってきた。
本稿では,振動分光法と熱量測定法で観える高分子中の水の構造の違いについて概説する。高分子中の水は,示差走査熱量法(DSC法)による評価から,水の凍結融解挙動に基づき,自由水・中間水・不凍水に分類される。水を非溶媒とする高分子中の微量の水は,一般にDSC法により,不凍水のみで構成されていると考えられていた。しかしながら,温度可変赤外分光法(TV-IR法)による評価から,高分子中の水が,あらゆる状態変化(凝縮・凝固・凝華・昇華・融解・蒸発)を生じ得ることが明らかとなり,さらに,昇温過程における凝華過程(再凝華)を経た再結晶化が見出された。これまでは,中間水に分類される再結晶化水は,アモルファス氷の脱ガラス化により形成されると考えられていた。これらの結果は,これまでDSC法に基づき定義されていた水構造を再考する必要性を示している。