オレオサイエンス
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特集総説論文
水環境系におけるナノ物質抽出分離をもたらす刺激応答性界面活性剤ゲルの有効性
伊村 くらら
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2020 年 20 巻 9 号 p. 431-437

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抄録

界面活性剤が形成する分子集合体は,可溶化や分散といった作用を通じて,ナノ物質の運搬および保持の用途に広く用いられてきた。近年では,界面活性剤に類する構造を持つ分子の自己集合によって得られる「低分子ゲル」が注目を集めており,これを用いたナノ物質の回収が報告されている。このようなゲル化剤として働く界面活性剤に,pHや温度,光といった外部刺激に対する応答作用を組み入れると,ナノ物質回収における機能が拡張される。そこで,界面活性剤ゲルを利用した新しいナノ物質回収法の一例として,pH応答性を示す界面活性剤C16CAのゲル状分子集合体を用いた抽出分離に関する研究を紹介する。両イオン性を示すC16CAが等電点付近で形成するゲル状分子集合体は,貴金属ナノ粒子および有機色素分子を効果的に抽出する。貴金属ナノ粒子に対しては,粒子表面でC16CAによる保護膜が形成され,さらにこれがゲル状分子集合体と複合することで高効率かつ高安定なゲル抽出がもたらされる。有機色素分子の抽出においては,pHに応答したゾル-ゲル転移を経由することで,ゲル状分子集合体内部への分子包接がおこる。包接抽出による色素回収量が分子集合体の内部でのC16CAとの相互作用に強く依存し,分子識別がもたらされることについても述べる。

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© 2020 公益社団法人 日本油化学会
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