オレオサイエンス
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特集総説論文
脂肪酸の美味しさ不味さの生体メカニズムの解明へ向けて
安松 啓子多田 美穂子永井 由美子中田 悠
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2021 年 21 巻 7 号 p. 261-268

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抄録

脂肪の検出に味覚器が関与する証拠が2000年前後から相次いで報告され,舌の味覚器に脂肪酸トランスポーターをはじめとする受容タンパクの発現検索,そして続いて機能証明が多角的になされている。筆者らはGPR40(FFAR1),GPR120(FFAR4)がマウスの舌に発現し脂肪酸の情報を脳に伝えること,GPR120は鼓索神経領域で長鎖脂肪酸を受容伝達して,他の味との弁別に役立っていることを報告した。さらに舌咽神経領域におけるCD36の嗜好性の脂肪酸情報の役割も現在解明中である。GPR120は消化管で最初に機能が報告されたが,脂質による腸管ペプチドGLP-1を通じてインスリン分泌や満腹感などにも関与し,胃のグレリン分泌を抑制することで食欲を抑える機能も最近明らかになっている。味覚による脳相反応によって,消化吸収の準備が始まり,満腹感にまで影響を与える可能性が大きい。味覚と疾患の関連として,肥満・糖尿病患者は味覚感受性が低下しており,さらに脂質や調味料を摂りすぎる危険性がある。味覚は今や摂食調節や生活習慣病と密接にかかわることが明らかで,美味しさ・不味さの解明は全身とのつながりにおいても重要である。

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