脂肪の検出に味覚器が関与する証拠が2000年前後から相次いで報告され,舌の味覚器に脂肪酸トランスポーターをはじめとする受容タンパクの発現検索,そして続いて機能証明が多角的になされている。筆者らはGPR40(FFAR1),GPR120(FFAR4)がマウスの舌に発現し脂肪酸の情報を脳に伝えること,GPR120は鼓索神経領域で長鎖脂肪酸を受容伝達して,他の味との弁別に役立っていることを報告した。さらに舌咽神経領域におけるCD36の嗜好性の脂肪酸情報の役割も現在解明中である。GPR120は消化管で最初に機能が報告されたが,脂質による腸管ペプチドGLP-1を通じてインスリン分泌や満腹感などにも関与し,胃のグレリン分泌を抑制することで食欲を抑える機能も最近明らかになっている。味覚による脳相反応によって,消化吸収の準備が始まり,満腹感にまで影響を与える可能性が大きい。味覚と疾患の関連として,肥満・糖尿病患者は味覚感受性が低下しており,さらに脂質や調味料を摂りすぎる危険性がある。味覚は今や摂食調節や生活習慣病と密接にかかわることが明らかで,美味しさ・不味さの解明は全身とのつながりにおいても重要である。
油脂が食品中で美味しさに貢献している要因の一つに香気成分の吸着能が考えられる。そこで,様々な油脂および幾つかの微量成分の有無における香気成分吸着能の違いを検討した。その結果,固体脂量が少ない油脂のほうが一般的に香気成分の吸着能が高いことが示唆された。また,グリセリンおよび植物ステロールを微量添加することで更に香気成分吸着能が上がることが明らかとなった。これらのことより油脂は食品中で香気成分を溶解しそれらを口中に運ぶ溶媒の働きをすることで美味しさ,さらには「こく」の付与に貢献していると推察された。
チョコレートの製造後の保存期間中に発生するファットブルームは,チョコレートの表面だけでなく内部のテクスチャーにも不均一化をもたらし,口溶けや風味などの品質を劣化させる。その発現の詳細は,チョコレートの構造や使用されるチョコレート油脂によって多様に変化し,その制御はチョコレート製造技術における極めて重要なテーマである。本稿ではファットブルームの基本的な形成メカニズムとその測定法を概説したうえで,筆者たちが最近解明した反射型レーザー顕微鏡を用いたファットブルーム測定法と,ココアバター代用脂を用いたチョコレートのファットブルームの防止法について考察する。