2022 年 22 巻 8 号 p. 381-387
“油団”とは,主に和紙とえごま油から構成される,夏季用の和式カーペットである。この油団は,使用して20~30年経過して強度や撥水性などの諸物性が最適になるというユニークな性質をもっている。本稿では,まず,天然有機物や高分子材料の分析法として近年注目されている,反応熱分解ガスクロマトグラフィー(反応熱分解GC)の測定原理や特徴について概説した.次に,えごま油成分の分子構造に注目して,反応熱分解GCを油団の解析に発展的に応用した事例を紹介した。この方法により油団を測定した結果,スベリン酸やアゼライン酸などのジカルボン酸のジメチルエステルが特徴的な成分として検出された。さらに,加熱処理して硬化させたえごま油,及び油団のモデル試料の測定を通じて,それらのジカルボン酸成分が,えごま油の酸化反応を経て形成された3次元ネットワーク構造から主に切り出されていることを実証した。最後に,ジカルボン酸成分を手掛かりに用いて,表面に塗布された乾性油の硬化機構の解明や,硬化の進行と油団の特性発現との関連性についても考察を行った。