オレオサイエンス
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22 巻, 8 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
特集総説論文
  • 石田 康行
    2022 年 22 巻 8 号 p. 381-387
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/04
    ジャーナル フリー

    “油団”とは,主に和紙とえごま油から構成される,夏季用の和式カーペットである。この油団は,使用して20~30年経過して強度や撥水性などの諸物性が最適になるというユニークな性質をもっている。本稿では,まず,天然有機物や高分子材料の分析法として近年注目されている,反応熱分解ガスクロマトグラフィー(反応熱分解GC)の測定原理や特徴について概説した.次に,えごま油成分の分子構造に注目して,反応熱分解GCを油団の解析に発展的に応用した事例を紹介した。この方法により油団を測定した結果,スベリン酸やアゼライン酸などのジカルボン酸のジメチルエステルが特徴的な成分として検出された。さらに,加熱処理して硬化させたえごま油,及び油団のモデル試料の測定を通じて,それらのジカルボン酸成分が,えごま油の酸化反応を経て形成された3次元ネットワーク構造から主に切り出されていることを実証した。最後に,ジカルボン酸成分を手掛かりに用いて,表面に塗布された乾性油の硬化機構の解明や,硬化の進行と油団の特性発現との関連性についても考察を行った。

  • 本多 貴之
    2022 年 22 巻 8 号 p. 389-395
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/04
    ジャーナル フリー

    漆は日本においては縄文時代から塗料や接着剤として使われてきた天然材料である。漆は木からとれる樹脂がある程度の温湿条件で硬化し,非常に強固な塗膜を形成する。この塗膜は酸塩基,有機溶媒に不溶であるため分析が非常に困難であった。漆塗膜の分析方法として熱分解-ガスクロマトグラフィー/質量分析(Py-GC/MS)が有効であることがここ25年程度で明らかになった。本論文では漆の基礎的なPy-GC/MSの解析と,漆に加えられている添加物のPy-GC/MSの解析について述べる。また,具体的な出土遺物への分析事例を合わせて紹介する。

  • 髙木 秀明
    2022 年 22 巻 8 号 p. 397-402
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/04
    ジャーナル フリー

    乾性油が多用される文化財として油彩画がある。本著者は,絵画などに使用されている色材の同定するための分析を行ってきた。文化財の保存という観点のもと修復前の状態を確認する機会が多く,色材以外の固着剤部分の劣化が多数を占めた。油絵具中の乾性油が固化すると強固な膜が形成されるが,それでも経年的な変化や劣化で亀裂や剥離,膨張などが起こる。乾性油は,空気中の酸素の酸化によって高分子化が起こり,固化するという現象は周知のとおりである。空気中で,油絵具に使用するための乾性油の抽出や精製が行われ,その中で,光に晒す工程がある。絵具中の固化過程の変化においても光に晒すことで固化途中の乾性油に起こった黄変を透明にするという技法がある。絵具として使用するには乾性油単体では固化するまでに時間がかかるため,金属塩を溶剤に溶解した乾燥促進剤を添加する。有色の乾燥促進剤もあり,固化後は,顔料の色調に影響を及ぼさないという点に意外性がある。先に述べた劣化の原因に固化膜内部での金属石鹸の生成があるとされている。油彩画に起こった劣化の現状とその原因究明のためにモデル絵具の作成をしながら,実物の油彩画試料との一致を目指している。比較的最近の分析化学的研究の既報を交え研究動向を紹介する。

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