2023 年 23 巻 5 号 p. 259-264
日本において,細胞シート,間葉系幹細胞,CAR発現T細胞など,既に10品目の細胞製剤が承認されている。細胞を医薬品として使用する治療においても,治療標的部位への送達や標的細胞との接着増強など,治療細胞の体内動態を制御する必要がある。CAR発現T細胞を用いた治療では,ウイルスベクターを用いてT細胞膜上にCARの発現を誘導する。このCARを介したT細胞の特異的な細胞接着により,治療標的細胞を攻撃し,治療効果が得られる。これは,細胞膜表面修飾による治療細胞の体内動態制御が治療に有効に利用された例である。本稿では,まず承認されている3種類の細胞製剤,細胞の体内動態について概説した後,遺伝子導入法,化学修飾法,脂溶性アンカーの利用,など,それぞれの細胞膜修飾技術を紹介し,それらの技術を利用した細胞膜修飾により治療細胞の体内動態を制御した研究を紹介する。最後に,私たちが取り組んでいる,標的指向化分子として低分子抗体を細胞膜に修飾するときに配向性を揃えて修飾する研究についても紹介する。