マクロファージにはM1型とM2型の異なるフェノタイプが存在する。M1型は病原体や異質な細胞(がん細胞)を認識して排除する免疫応答を担う一方,M2型は血管新生や組織再生を促し,がんの形成にも関わる。がんの形成過程におけるマクロファージの動態,特に,M2型の性質をもつtumor-associated macrophage(TAM)の機能や,M1型とM2型の分極の制御因子が明らかになるにつれ,マクロファージに焦点をあてた新たながん免疫療法の提案が活発化してきている。本稿では糖鎖改変による細胞表面の修飾とがん免疫治療を指向したマクロファージの機能化について紹介する。
両親媒性高分子は,その疎水部と細胞膜の脂質二重層との弱い疎水性相互作用により,細胞表面へ固定される。この特性を利用して,細胞表面に官能基や機能性分子を導入できるため,細胞表面を改質できる。特に,ポリエチレングリコール結合脂質(PEG脂質)に,短鎖DNA(ssDNA)や機能性ペプチドを結合させることで,細胞操作が可能になり,細胞同士の接着や細胞-基板間の接着を実現できる。細胞同士を接着できることで,新しいバイオ人工膵臓の作成や細胞融合を実現できる可能性が出てきた。
日本において,細胞シート,間葉系幹細胞,CAR発現T細胞など,既に10品目の細胞製剤が承認されている。細胞を医薬品として使用する治療においても,治療標的部位への送達や標的細胞との接着増強など,治療細胞の体内動態を制御する必要がある。CAR発現T細胞を用いた治療では,ウイルスベクターを用いてT細胞膜上にCARの発現を誘導する。このCARを介したT細胞の特異的な細胞接着により,治療標的細胞を攻撃し,治療効果が得られる。これは,細胞膜表面修飾による治療細胞の体内動態制御が治療に有効に利用された例である。本稿では,まず承認されている3種類の細胞製剤,細胞の体内動態について概説した後,遺伝子導入法,化学修飾法,脂溶性アンカーの利用,など,それぞれの細胞膜修飾技術を紹介し,それらの技術を利用した細胞膜修飾により治療細胞の体内動態を制御した研究を紹介する。最後に,私たちが取り組んでいる,標的指向化分子として低分子抗体を細胞膜に修飾するときに配向性を揃えて修飾する研究についても紹介する。