2023 年 23 巻 7 号 p. 377-383
バイオミメティック化学という研究分野をご存知だろうか。天然に存在する様々な生体分子の機能に注目して,化学的に合成した物質を用いて再現を試みる学問分野である。筆者のグループでは長年にわたりシクロデキストリンを用いたヘモグロビンモデル錯体の開発を行ってきた。シクロデキストリンを用いたモデル錯体hemoCDは,水中で機能する唯一の人工ヘモグロビンであり,生体内でも利用可能である。hemoCDを生体内に導入すると血液中で酸素運搬機能を示す一方,COなどの有毒ガス成分を強く結合し尿中に排出するというユニークな作用も示す。この物性は火災現場で利用できるガス中毒の治療薬としての可能性を示唆しており,現在社会実装を目指して取組んでいる。本稿ではバイオミメティック化学を起点とする筆者らの創薬に向けた取組みを紹介する。